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編集後記  第64巻8号 2016年8月
 

▼選挙権を持つ有権者が18歳以上に拡大された。わが国では選挙で選ばれた議員に国家の方向性を委ねる間接民主主義をとっている以上、有権者になることは国の政策に影響力を与える機会を持つことになる。わが国では高齢者の割合が高く、しかもその投票率も高いために、高齢者世代よりの政策が優先され、若い世代への支援は遅れがちになってきたことはよく指摘されている。

 たとえば、小泉内閣が進めた社会保障費の伸びを抑制する政策は国民の支持を得られず、政権交代が起こる一因ともなった。その後、高齢化に伴い、社会保障費は年間2兆円ずつ増加し、2014年度は115兆円に達し、上昇を続けている。内訳は年金が56兆円、医療が37兆円、介護が9.5兆円、子ども・子育ては5.3兆円であり、多くの給付は高齢者のために使われている。その財源の60%が社会保険料であるが、40%は国債に依存している公費であり、国の借金はすでに1,000兆円を超えてしまっている。

▼わが国の社会保障の枠組みが固まった1973年の現役世代は、「正規雇用・終身雇用の男性労働者の夫と専業主婦の妻と子ども」という核家族が中心であった。そして、現役世代は雇用、高齢者世代は社会保障で生活するという仕組みを作ったのであるが、この時代は約9人の現役世代が1人の高齢者を支えていた。しかし、現在のわが国では、カップルと子ども2人というかつての「標準世帯」は全世帯の3割を切っており、現役世代約2.5人が1人の高齢者を支えている。しかも高齢者の平均余命の延伸により、70年代の約3倍という長期間にわたって支えなければならなくなっている。

 一方、厚生労働省の調査では、貧困率は平成24年に16.3%で過去最悪となり、17歳以下の子どもの6人に1人、300万人あまりが貧困状態にあるとされている。なお、世帯収入から子どもを含む国民1人ひとりの所得を計算し、国民の平均的な所得の半分を「貧困ライン」と呼ぶ。平成24年の貧困ラインは122万円であったが、貧困率とは「貧困ライン」以下の者の割合である。また、母子家庭などの「ひとり親世帯」の子どもでは、貧困率は54.6%、2人に1人を超えていた。

▼現在の社会保障による給付のあり方は高齢者に偏り過ぎであり、財源も国の借金に過度に依存しており、改革していかなければならない。これらの問題を政治家は若者にも、わかりやすく説明していく義務がある。社会保障による子育ての支援は他の先進諸国と比べ不足しており、国の借金は将来若い世代の負担になってくることは避けられないからである。社会保障制度改革における具体的な対策はさまざまであるが、「給付は高齢者世代中心、負担は現役世代中心」という現在の方針を変更していき、「給付は必要に応じて、負担は能力に応じて」といった社会保障の原則に戻らなければ、わが国の社会保障制度は支えられないであろう。それを可能にするためには、新たに選挙権を得た若い世代にも選挙に行ってもらうことが不可欠である。

 

(馬場園 明)
 
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