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編集後記  第59巻1号 2011年1月
 

▼あけましておめでとうございます。
 2010年の11月、ある学会で韓国の光州を数日間訪問しました。海外出張にもかかわらず、ビートルという高速船と長距離バスで、飛行機を使わない旅となりました。アジアを旅するといつも思うのですが、長い時間をかけて行くと、到着するまではとんでもない田舎に向かっているような気になります。ところが現地に着いてみると、それぞれが特有の歴史や文化、社会を持って、多くの人々の活き活きとした生活を垣間見ることができ、そのギャップに驚きます。

▼やはり韓国でも道に迷ったり、要領が分からなかったりすると、通りがかりの人や商売の方々に教えてもらい、快適に過ごすことができました。こうした地元の人との交流にはそれなりの時間をかけないと、なかなか心のふれ合いにまで至ることができません。それ以上に、訪問する側が気持ちをゆっくりとさせ、相手の時間に合わせる心の余裕が必要です。こうした人間関係の構築能力は子どもの頃からの生活や対人関係から身に付いていくものなのでしょうか。大学でもトレーニングで磨くことは可能でしょうが、気持ちの持ち方、心の姿勢まで磨くのは大変なことです。それとも、消費的で便利な生活スタイルがとれる現在は、日常生活での人間関係はあいさつ程度でしか必要としていないのでしょうか。

▼旅行やアウトサイダーとして見知らぬ土地を訪問する人は、恐らくはエキゾチックな体験や、地元の文化や伝統を背負った人々との出会いこそが最も記憶に残るものなのではないでしょうか。だまされたりすることもないわけではありませんが、ちょっとしたふれ合いや、お世話になったりしたことで気持ちがほぐされたり、自分の価値観を揺さぶられたりすることで記憶に残る旅となるのではと思っています。

▼今月の第2特集は近年、大学で顕著になりつつある海外離れ、留学離れです。最近、アメリカ中部の大学に留学している学生からメールが届きました。勉強は大変だが、部活にも入り楽しくキャンパスライフをおくっていて、もっと頑張ってみたくなり、大学院での留学先を探そうと思い始めたそうです。今どきの学生は、どうも海外大好き人間と留学不必要論者まで大きく分かれていて、両者が会話するとまるで異なる世界観があるように、平行線をたどってしまいます。もちろん、海外留学したくても修学・就職を第一に考えて控えている学生の様子も見られます。数十年前、海外に行きたくともその術や資金がなかった時と比べると、国際化、グローバル化が進行するにつれ、海外へのあこがれは減り、留学も現実的選択肢のひとつとなっているのでしょう。

▼旅が嫌いな人はあまりいないでしょう。海外も国内旅行も言葉とちょっとしたスキルが異なるだけでそんなに変わりません。そういえば、門松は冥土の旅の一里塚でした。楽しい旅が今年も送れるようになればと思います。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

(竹熊尚夫)
 
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