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編集後記  第57巻5号 2009年5月
 

▼本誌2009年1月号の「海外レポート」でトラスト・スクールについて報告しましたが、3月初旬から下旬にかけて、継続調査のためにイギリスに行ってきました。10日間で9校を訪問しましたが、今回も予想以上に早いスピードで変わりつつあるイギリスの学校現場を目の当たりにしました。その中で、特に印象に残った新しい動きについてふれてみたいと思います。

▼1つは、公的学校設立における「自由化」が強く進められていることです。現在の政府は、公的学校を新設する場合に入札を行い、最適とみなす「プロモーター」に学校設立を認可する方針をとっています。この仕組みとトラスト制度を組み合わせると公営学校が別の公営学校を実質的に新設できるのです。

 今回、訪問したケンブリッジのある中等学校の校長は、ニュータウンでの学校新設に際して、地方当局が入札でプロモーターを決定したときに、入札に参加するためにトラストを作っていました。入札には、この学校が属するトラストの他に、別のトラスト、教会教区、そして200あまりの学校をスイスで運営する会社が参加したそうです。この入札に勝って校長は学校を新設したのです。

 この校長が、わざわざ多大の時間と労力を使って入札に参加した最大の理由は、自分が今まで実践してきた、すぐれたと自負する教育を新しい学校にも広げていきたいということでした。公営学校の設立や運営に外国の会社が参加したり、公営学校が学校を新設できるような状況に、この校長が言うように「私たちは今までとは違う世界にいる」との感を強くしました。

▼もう一つは、コーポラティブ・スクールをめぐる動きです。コーポラティブ・スクールとは、イギリスで生まれた生協運動の理念に基づき、トラストの中心メンバーとして生協を加えた学校です。生協は組合員全員の参加によってその生活と福祉の向上を図るものですが、コーポラティブ・スクールはこの精神を学校教育に持ち込むものです。

 訪問した生協発祥の地に近いマンチェスター近郊の中等学校は、「自助、自己責任、民主主義、平等」という精神に根ざした教育実践を目指す、イギリスで最初のコーポラティブ・スクールとして注目を集めています。そのため、生徒、親・保護者、教職員、地域住民、コミュニティ・グループが参加する「フォーラム」が置かれ、すべての関係者が学校運営に参加できる仕組みが整えられていました。特に印象的だったのは「コーポラティブ・チャンピオン」と呼ばれる生徒たちを核として、上から教師が植え付けるのではなく、生徒の中から生協の精神を発展させようとする姿勢でした。

▼2週間あまりの短い期間でしたが、この2校をはじめ、あらゆる改革はすべて子どもたちのためだと明言し、熱意を持って改革に取り組んでいる校長たちの姿から、私自身も改めて多くのことを学んだ調査でした。

(望田研吾)
 
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