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立ち読み  
編集後記  第55巻8号 2007年8月
 

▼30年前、国立大学からある新設医大に移ることになりました。当時、私は医学部の助手になったばかりでしたので、医学教育についてはそれまで全く考えたこともなく、いわばひとごとにすぎませんでした。
 ところが新設医大に移ってみて、教育を担当せざるをえなくなり、医学教育についての勉強をする必要にせまられました。少し関係の本を読んだり、経験のある先輩に聞いたりするようになり、教育、特に医学教育ということばが頭のすみにすみつくようになったのです。
▼そのころある先輩が、「教育というのは、学生の意識を変えることだよ。そして、意識を変えた学生が彼らの行動を変えたとき、はじめて自分がした教育の成果が少し見えた、と考えることができるんじゃないのかな」と私に話されました。
 それからずっと、医学生の相手をしているときはいつでも、この「意識と行動の変化」がキーワードとなったのです。
▼今月号の特集は、「集中力を育む」と「子どもと睡眠不足」の2本を企画いたしました。いずれもいま話題になっている事柄であり、それぞれの視点から執筆していただきましたので、参考にしていただけるものと思っております。
 さて、集中力とはなにか? 『広辞苑』を開くと、「集中=ひとところに集めること」あるいは「集注=(力、精神を)ひとところに集めそそぐこと」とあります。
 私たちが“子どもの集中力を育む”など、教育や育児にからんで使う場合、『学校教育辞典』(今野喜清ほか編集代表)にあります、「集中力」の定義が参考になります。
 すなわち、「他のことに注意を奪われることなく、ある活動の遂行に没頭することができる能力を集中力と呼んでいる。(略)おもしろいことに集中することは容易だが、学習の過程では、つらいことやおもしろくないことにも集中しなくてはならないこともあり、そのための努力や工夫が指導者側にも学習者側にも求められる……」
 ここでの集中力とは、“他のことに注意を奪われることなく、ある活動の遂行に没頭することができる能力”と定義されており、学習者の能力ということになります。しかし一方では、この定義では集中するためには“そのための努力や工夫が指導者側にも、学習者側にも求められ”ているのです。
▼つまり、集中力の向上や集中時間の維持には、子どもたちだけにその努力を求めるのではなく、私ども教員や親にもいろいろと工夫することが必要であることも強調しているのです。この点に大いに賛同し、先にふれた私のキーワード「意識を変化させて、行動を変える」は集中力を育む場合にも通じるのでは、と考えてみました。

(満留昭久)
 
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