Browse
立ち読み
巻頭随筆

アレルギーと学校生活を考える     衞藤 隆

 

 現代の日常生活においてアレルギーという用語はしばしば耳にする。アレルギー疾患に悩まされている人がそれだけ増えているという現実があるからであろう。学校の現場においてもこのことは気づかれており、その実態把握と取られている対策の現況を把握するため、平成16年度末に文部科学省において全国の公立小中高等学校を対象に実態調査がなされ、その分析結果は「アレルギー疾患に関する調査研究報告書」として平成19年4月に公表された。

 それによると、児童生徒全体に占めるアレルギー疾患を有する者の割合は、おおむねこれまでの疫学調査結果から推測される範囲内の結果であり、気管支喘息(喘息)で5.7%、アトピー性皮膚炎で5.5%、アレルギー性鼻炎で9.2%、アレルギー性結膜炎3.5%、食物アレルギー2.6%、アナフィラキシー0.14%という結果であった。これを受けて平成20年度に財団法人日本学校保健会内に学校におけるアレルギー疾患に対する取組推進検討委員会が文部科学省との密接な連携の下に組織され、約10カ月の討議を経て、「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(以下、ガイドライン)および「学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)」が作成された。

 ガイドラインは、学校において幼児、児童、生徒(以下、児童生徒等)が安心して安全に学校生活を送ることができるよう、アレルギー疾患に関し、どのような注意や配慮をすべきかについて解説されており、これを確実に実行するために当該児童生徒等のアレルギー疾患に関し、医師の医学的判断や見解が家庭を通じ学校に確実に伝えられるようにするため「学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)」を活用することが大切である。このことを広く普及させるため各地において学校関係者、学校保健関係者等を対象に講習会が開催された。

 ようやく学校におけるアレルギー対策が普及しつつあった昨年12月、東京都調布市の小学校にて第5学年女子の学校給食死亡事故が起きてしまったことは誠に残念なことであった。本年3月には同市の検証委員会にて児童死亡事故検証結果報告書がまとめられ、また文部科学省においては「学校給食における食物アレルギー対応に関する調査研究協力者会議」が設置された。学校における食物アレルギーに対する万全の対策が改めて検討されている模様である。

 基本的な「学校におけるアレルギー疾患を有する児童生徒への対応と取組」の方向性は上述の「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」として示されており、ここで示された対策をきちんと行うことが今後も大切である。学校として取り組みに必要な情報を共有し、起こる可能性のある出来事を予想し、備えることが求められるであろう。ガイドライン自体は初版から5年経過し、エピペン®の形態など変化した部分もあるので、改訂される必要はあろう。

 最後に子どもと食物アレルギーをめぐる近年の動きについて表にまとめたので、参照していただきたい。



表 子どもと食物アレルギーをめぐる近年の動き




 
執筆者紹介
衞藤 隆(えとう・たかし)

社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所・所長。東京大学名誉教授。大阪教育大学客員教授。医学博士。専門は学校保健学、母子保健学、小児科学。東京大学医学部保健学科および医学科卒業。東京大学助手、国立公衆衛生院室長、東京大学教授(健康教育学)を経て現職。著書に『学校保健マニュアル(改訂八版)』(共編著、南山堂、2010年)、『最新Q&A教師のための救急百科』(共編著、大修館書店、2006年)など多数。

 
ページトップへ
Copyright © 2004-2013 Keio University Press Inc. All rights reserved.