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巻頭随筆

子どもの問題行動の意味     野島一彦

 

 幼稚園、小・中・高等学校では、いつの時代にも子どもの『問題行動』には悩まされてきましたが、近年は特にそれがひどいようです。ただひと口に『問題行動』と言っても、授業を成立しにくくするものから、警察のお世話になる非行のようなものまで、様々なものがあります。

 心理学的な適応論では、人がいろいろなストレスを受けてそれにうまく対応できない場合、「行動化」(行動がおかしくなる)、「身体化」(身体がおかしくなる)、「習癖化」(変な習癖が出る)、「精神化」(精神がおかしくなる)、「性格化」(性格がおかしくなる)といった不適応状態を示すと考えられています。この考えからすれば、『問題行動』は「行動化」のカテゴリーの不適応状態ということになります。「行動化」は、さらに〈反社会的行動化〉(他者に害を与える)と〈非社会的行動化〉(自分が社会から引きこもる)に分けられます。

 子どもがストレスを受けてそれにうまく対応できない要因としては、主に「自己」「家庭」「学校」がからんでいます。「自己」という意味では、欲求不満耐性の低さ、人生についての希望の不明確さなどがあげられます。「家庭」という意味では、不適切なしつけ、家庭の不和、児童虐待などがあげられます。「学校」という意味では、知育偏重、受験競争、管理主義などがあげられます。

 私は長年のカウンセリングの経験から、『問題行動』の〈見立て〉(理解)と〈手立て〉(関わり方)について考える際に、《発達障害》(学習障害、ADHD、自閉症スペクトラムなど)の傾向の有無に注目すべきであると思うようになりました。この傾向がある子どもとない子どもでは、世の中の見え方、世の中への反応の仕方にかなり違いがあるように思います。ということは、大人の子どもへの関わり方も、その違いを踏まえて行われることが大事だということになります。その違いに注目せず、単に「わがままな子」などと思い込むことはとてもまずいと考えます。近年は、発達障害への関心が高く、それらについて学ぶ機会も増えてきましたので、それらをとおして発達障害の知識を持つことが必要だと思います。

 「行動化」には、〈悪性の行動化〉と〈良性の行動化〉の二種類あるように思われます。〈悪性の行動化〉は『問題行動』ということになりますが、この「行動化」が顕在化するのを抑止するものとしてスポーツなどの〈良性の行動化〉があります。ストレスを受けて暴発しようとするエネルギーをスポーツなどに向けさせることで、〈悪性の行動化〉である『問題行動』を減少させることができます。

 『問題行動』は、子どもの“自己表現”と考えることができます。ですから、『問題行動』を単に押さえ込むという対症療法的な関わりだけでなく、「自己」「家庭」「学校」と関連づけながら“子どもの『問題行動』の意味”について考えることが、大人には求められることになります。

 
執筆者紹介
野島一彦(のじま・かずひこ)

跡見学園女子大学文学部教授。博士(教育心理学)。専門は臨床心理学。九州大学大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学、福岡大学人文学部教授、九州大学大学院人間環境学研究院教授などを経て現職。著書に『臨床心理学への招待』(ミネルヴァ書房、1995年)、『エンカウンター・グループのファシリテーション』(ナカニシヤ出版、2000年)、『力動的集団精神療法』(共著、金剛出版、2010年)、『グループ臨床家を育てる』(共著、創元社、2011年)など。

 
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