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編集後記  第64巻2号 2016年2月
 

▼大学入試が変わろうとしています。この背景には、大学教育において学生の勉学に対する姿勢や学力に問題が存在すること、社会が大学に求める教育のニーズが変化した、という二つの課題があるのです。
 すなわち、学習意欲の低い大学生は少なくありませんし、少子化の影響もあり大学に入りやすくなったために、学習習慣のない学生や高校を卒業したといえる学力のない学生も増加してきています。一方、社会においては経済がグローバル化し、製品やサービスは常に改善が求められる現在、企業は世界を舞台に活躍できる人材や、製品やサービスの「イノベーション」を継続できる人材を確保したいと考えています。

▼そこで、文科省は高校・大学教育、大学入試を一体として改革し、新しい大学入試では、「思考力」「判断力」「表現力」を重視しようとしています。これには、「受動的な知識偏重型」から、「能動的な問題解決型」の教育を重視していこうという意図が現れています。これらの能力を評価することは簡単ではないにしろ、現在の高校・大学生の学習方法に問題を感じている私は、教育のあり方についても議論がなされていることを歓迎しています。

▼たとえば、高校数学では「三角関数」「ベクトル」などを習います。そして、これらの問題を多くの大学受験生は解くことができますが、いったい「三角関数」「ベクトル」の本質を理解している学生がどれだけいるでしょうか。
 高校教育や受験教育では、パターン暗記で1点でも多く取ることを、「定義や論理」を理解することよりも重視している現実を直視することも必要です。「定義や論理」を重視しなければ、「思考力」「判断力」「表現力」の養成は困難です。また、子どもは生まれながらにしてさまざまな違いがあります。義務教育では基礎学力を身につける必要性はあるものの、高校生になっても暗記中心の試験で序列をつけていく教育方法では、「わかりたいという意欲」を高めることはできないと思われます。

▼教育において、「知識」に加えて「思考力」「判断力」「表現力」の養成を行っていくには、「定義や論理を重視した教育」を行い、子どもが「わかった」と因果関係を体験できるような機会を提供することが必要だと思います。加えて、「関心のある本を読むことや自分の考えをまとめる」機会を提供していくことが自律的に学習する力を養成することになり、「能動的な問題解決型の教育」を実現することにつながると思います。
 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」とは山本五十六の言葉ですが、「支援」するということは相手との共同作業を行うことであり、子どもが何を望んでいるかというところに関心を持ち、どのように支援したら「自己学習」が継続できるかといったことにも焦点づける必要があります。今、教育改革に求められているものは、教育者の心構えの「イノベーション」なのかもしれません。

 

(馬場園 明)
 
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