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立ち読み  
編集後記  第63巻8号 2015年8月
 

▼水遊び叱られしことすぐ忘れ 西宮舞

▼子どもの水難事故のニュースに、幼い子どもをもつ父親として胸を痛めます。一方で、子どもの頃に近くの川で遊んだ思い出はいつまでも忘れられません。弟や近所の子を引き連れて川に入り、ハヤやナマズを捕まえました。弟たちに指示をだして魚を追い込みタイミングをみて私がバケツや網を引き揚げる。なかなか思い通りに動かない年少の子たちを統率しどう動かすかが私の腕の見せ所です。私はザリガニを捕るのが得意でした。川下からそっと近づき、一気に虫取り網を振り入れ、驚いて後方に飛び上がったザリガニをすくい上げるという自慢の技をもっていました。一度に二匹のザリガニをすくい上げたこともありました。

▼今思えばけっこう無茶なこともしていて、文頭の句の子どもを注意する親や大人たちの気持ちが今はよく分かります。ただ、そんな子どもたちにもいくつかのルールがありました。川の石を動かしたら元に戻す。ハヤは持ち帰り水槽に入れてもすぐに死んでしまうので川に放して帰る。川の流れや深みには注意して危険な場所に年少の子は近づかせない。気に入らないことがあって小さい子が泣き出したら(そのまま帰すと親たちから叱られるので)ちゃんと機嫌を戻させてから帰す……などです。多少、無鉄砲に見えるようなことをやったり、大人に叱られることもあったのですが、今号の特集にあるように、遊びを通してたくさんのことを学んでいたように思います。

▼しかし、弾けるような子どもたちの笑顔をたくさん見ることのできる夏休みにも、ご家庭の事情で不安や恐怖を感じながら過ごしている子どもたちの存在を忘れるわけにはいきません。

▼私はアルコール使用障害(アルコール依存症)の専門治療を行っている病院に臨床心理士として勤めていました。お父さんやお母さんの入院時に付き添う子どもは少ないのですが、しばらくしてからの面会に小さいお子さんがついて来られる場面を目にすることがあります。自分が担当している患者さんの面会の様子をうかがいながらも、ついてきたお子さんの様子も気になってしまいます。

▼恐らく入院する前の酔って暴れるお父さんやお母さんの姿が目に焼き付いているのでしょう。最初は表情もこわばり後ろのほうに隠れていました。入院して「しらふ」となって落ち着いた親の様子を確認してやっと安心したようです。帰りには、私たちスタッフにも笑顔で手を振ってくれながら帰っていきました。私たちも患者さんと並んで手を振りながら、「これからが勝負なのだ」と気持ちを引き締めます。患者さんの退院と回復のために取り組まなければならないことはたくさんあるのです。

▼入院している患者さんのご家族の支援について、できるだけのことはやってきたつもりですが、今回の特集を読みながら、親が心の病をもつ子どもたちに対する支援について、私にももう少しできたことはないのか、考えてみようと思います。

 

(古賀 聡)
 
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