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編集後記  第63巻2号 2015年2月
 

▼本誌の第2特集は冬の感染症対策である。扱われている感染症は、インフルエンザ、感染性腸炎等であり、おなじみといえばそれまでだが、毎年流行が繰り返されることや、感染性腸炎の際の対応が十分浸透していないことを考えると、しっかりおさえておきたい事項である。

▼ところで、これを書いている2014年は、感染症に関わる事象が大きなニュースとなった。ひとつは夏のデング熱感染である。デング熱は、適切な対症療法を行えば生命に関わる危険性はないと言われているものの、大人が発症すると強い症状を伴う。子どもの場合は、大人ほど強い症状は出ないことが多いが、デング出血熱という、生命の危険に関わることもまれでない重篤な病気になる確率が高いことがやっかいである。
 ウイルスを持った蚊が媒介する病気であるため、冬の時期は流行する可能性は低いと考えられるものの、暖房の発達で冬だから大丈夫と言い切れないのが今の日本である。

▼もう一つは、エボラ出血熱である。平成10年に改正された感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(通称、感染症予防法)では、1類感染症(危険性が極めて高い感染症)の種類が変更され、1類感染症に加わった病気のひとつがエボラ出血熱であった。
 正直に言うと、筆者は医療関係者であるにもかかわらず、日本の日常生活の中では1類感染症は遠いもの、という意識があった。しかし、感染症の専門家に言わせると、これは「くるべきものがきた」ということらしい。集団発生する場所は限局している感染症であっても、グローバル化により人の移動の激しい現代にあっては、確かにどこで患者が発症しても不思議ではない。

▼さて、デング熱は蚊に刺されないようにする、という個人レベルでの予防方法があるが、エボラ出血熱は致死率の高さとともに、予防の困難さも不安感を強める要因となっているように思う。
 エボラ出血熱が入ってきた場合、対応機関のひとつとなる保健所職員の育成に関わる立場からは、感染経路や、発症が疑われた場合の正しい対応に関する理解が広がることを願う。本誌の読者には言うまでもないが、知識のなさがパニックの発生や偏見につながる場合も多いためである。もちろん治療や隔離の体制整備が確実に行われていることが前提である。これを書いている今は、エボラ出血熱で騒いでいるが、人間に感染する感染症で人類が根絶できたのは天然痘だけである。エボラ出血熱以外にも、新しい感染症(場合によっては、前からある感染症)が発生・再燃する可能性は低いとはいえない。

▼滅多に生じないけれど、生じる可能性のある健康危機に対し、その事前対応を行っておく必要性がどれほど高いかを、私たちは自然災害の経験で十分すぎるほど学んだ。身近な感染症への対応とともに、感染症も含めた健康危機に関する教育のあり方も今後検討する必要があるだろう。

 

(鳩野洋子)
 
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