特集にあたって2026年3・4月
健やかな成長を支え、生きる力を育むグループワーク
古賀 聡
今回の特集では、グレーゾーンを含む神経発達症の子どもを対象としたグループワークの意義や実践について考えます。子どもの発達支援や心理支援は個別形式と集団形式があり、それぞれの持ち味があります。
個別形式の支援は、支援者と一対一で行う面接や課題学習、プレイセラピーがあり、個々の支援ニーズや子どもの心理状態に対する柔軟な配慮が可能となります。子どもは自分のペースで語り、表現することができます。支援者は、子どもや保護者が抱える独特な問題や状況に対して、密接に関わり、より具体的な提案をすることが可能です。
一方で、集団形式の支援は、共通の問題や課題を持つ集団で行われ、多様な人との出会い、そして新しい視点に触れることが期待されます。他者の視点を通じて自分の問題を新たな角度から検討することができて、自己理解の深まりにもつながります。他の子どもとの協働作業や遊びを通して、感情を表現し、共有する機会が生まれます。具体的な対人スキルの向上も期待でき、日常生活でのコミュニケーションがよりスムーズになります。
以上のような学びの場としての集団の意義に加え、「居場所」機能の意義が集団にはあります。集団形式の支援の特徴として、同じような問題を抱える子どもや保護者が集うため、仲間意識の形成や孤独感の軽減が生じます。集団形式の支援では、セラピストなどの専門家が進行役となりますが、集団に共感的な雰囲気が伴うと、子ども同士、保護者同士の相互支援的なプロセスが発展します。
「私と同じだ」「私だけではない」という共通性の体験は孤立などの心理的危機を乗り越えることを支えます。「私は私だ」「みんな違っていて、それでいい」という多様性が受容される体験は、自分の強みを把握し、生きていく力を育むことにつながるでしょう。一方で、これまでの集団場面や対人場面で、失敗し、批判される経験を積み重ねてきた子どもは、支援や教育を目的としたグループに参加することに、期待と同時に強い不安を抱くことが予想され、そのような子どもの不安や緊張を和らげる配慮は必要でしょう。
今回は、幼児期から思春期・青年期といった様々な発達段階におけるグループワークをご紹介します。さらに、発達支援グループにおける親の会活動の実践についてもご紹介します。また、グループワークの方法についても、語りあいや集団での学習的プログラムだけでなく、遊び、ボディワーク、ロールプレイング、音楽や創作などの芸術表現を取り入れたものなど、多様な実践をご紹介します。
詳しくは遠藤先生の論文を読んで頂きたいのですが、発達支援や健康支援の領域では「非認知能力」が注目されています。教科学習の成績や知能指数(IQ)のように数値化は難しいのですが、健やかな成長の基盤となり、生きる力として大切な要素です。感情や行動などの自己調整の能力、対人関係を形成・維持する協調性や共感性などの能力、危機やストレスに対処して乗り越える(やり過ごす)能力などが含まれます。このような能力を育むのにグループワークは極めて有効な方法だといえるでしょう。
発達支援において、「できること」を増やす支援は重要です。一方で、生きていくうえでは、どうにもならないことに直面することも多く、そのようなときに自分の限界を受け止め、他者に適切に援助を求めるスキルも重要だと思います。そして、「できないこと」ですら自分の強みになる可能性があることを子どもたちには知っておいて欲しいのです。「できることを増やして欲しい」という保護者の願いは大切にしながらも、長い人生を生きぬく力を育む大切さを保護者と共有したいと思います。
通級指導教室、療育機関、発達相談施設など様々な現場で集団形式の支援が行われていますが、今号は、そのような現場の実践に参考にして頂ける特集になったと自負しています。
執筆者紹介:古賀 聡(こが・さとし)
九州大学大学院人間環境学研究院准教授。博士(心理学)。九州大学大学院人間環境学研究科博士後期課程単位取得後退学。専門は臨床心理学。医療法人十全会おおりん病院臨床心理士を経て現職。著書に、『臨床動作法の実践を学ぶ』(共著、新曜社、二〇一九年)、「中年期・高齢期のひとへの健康動作法」(『ふぇにっくす』第75号、二〇一七年)ほか。
編集後記2026年3・4月
ちょうどこの編集後記を書いている1 月末は、本特集で私が執筆者として紹介したグループセラピーの活動が、年度末の最終回を迎える時期にあたっていました。我々が行っているグループセラピーは、継続して参加する子どもたちもいますが、基本的に年度単位の活動になっています。今年のメンバーが初めて集い、「よろしくお願いします」とあいさつする年度の1 回目にはぎこちない雰囲気だったグループも、年度末の最終回では全体での一体感やつながりが感じられるようになります。子どもとセラピストとの間でも、子どもたち同士の間でも、本年度の終わりや別れを惜しみあい、時には保護者も含めて涙をこらえるといった感動的な場面が毎年のように見られています。このような情緒的な盛り上がりやメンバー間の思い入れといったものは、グループという場だからこそ生じるものであり、それこそがグループセラピーを効果的なものとして推し進める基盤であり、本質ではないかとも思います。
また、グループという場から得られる体験は、参加する子どもたちや保護者の方にとってだけでなく、支援者にとっても大変豊かで学びが多いものではないかと感じます。グループを通して多くの子どもたちと関わることができ、大人との間では見られない、子ども同士の関わりや相互作用の実際を共に体験し、理解や支援を行うことができます。また、同じグループに関わる他のスタッフが、どのように子どもたちと関わり支援しているのか、実際に目の当たりにしながら学ぶことができます。特に私自身が初学者であったときをふり返ると、同じグループに参加していた先輩や同輩の姿から、支援者のあり方として多数のことを学ばせていただいたものであり、現在の自分の支援者としてのあり方の基礎になっていると感じます。本特集を通して、子どもたちにとっても、支援者にとっても、お互いが育ち合う場としてのグループの力について、改めて実感することができるのではと思います。
(小澤永治)


