こころとからだを科学する
教育と医学
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編集後記
第54巻3号 2006年3月
▼ 核家族化、情報化などで社会情勢は変化し、子どもの心身の病気は増えている一方、専門家は少ない。今回の特集でこれらのことについて多くの方から貴重な論文をご執筆いただいた。ところで私は、心療内科からみた子どもの心身の病気について述べてみたい。
▼子どもにおいてさまざまな身体症状を示す不安症や心身症(神経性食欲不振症、過敏性腸症候群、脱毛症、アトピー性皮膚炎、過換気症候群)、行動異常が増加している。子どもの場合、ストレスから生じた不安が精神症状としてよりも身体症状として現れることが多い。
▼このような子どもの治療にあたっては、それぞれの身体症状の治療とともに心理療法が必要である。心理療法には、面接(カウンセリング)、行動療法、自律 訓練法、作業療法、家族療法や集団療法などいろいろなものがある。治療の基本は患者の病態の理解、治療者・患者関係の確立、治療への動機づけが重要であ る。患者の病態や環境などによって、これらの治療法を組み合わせて行っている。一般的には、両親を交えての家族療法や、遊戯、絵画、箱庭などの作業療法が 効果的であることが多い。
▼また、おとなしくよく言うことをきいていた子どもが突然感情の爆発をおこしキレることが、マスコミなどで多く報道されている。怒り、恐怖、不安などは大 脳辺縁系の扁桃の役割であり、その感情をコントロールしているのは大脳皮質の前頭葉である。キレる人は扁桃が興奮しやすく、前頭葉の活動が抑えられている と考えられる。突然キレるのは、感情の抑制がきかないことによる。その原因としては次のことがあげられる。
▼( 1)感情のトレーニングができない、(2)普段は感情の表現や起伏が少ない、(3)ささいなことでもストレスに感じてしまう、(4)強いストレス状態。
▼ “三つ子の魂百まで”といわれるように、ストレスの耐性や感情のトレーニングは幼少時期に形成される。両親、特に母親との信頼と安心をベースにして、体で覚えていくことが必要である。
▼家庭の中でリラックスすることによりストレス状態から解放され、心身の疲労回復や精神の安定につながる。家庭の不和などのために、家庭の中でリラックス できない場合、さまざまな心身の病気が生じることになる。ストレスは弱いところに現れ、夫婦の問題が子どもの病気として出てくることによく遭遇する。ま た、幼少時期の家庭での食事、睡眠、学習などの躾もたいへん重要である。体で覚えることが必要なこれらの躾がうまくできていないと、思春期頃になりさまざ まな不適応や心身症を生じることがある。夜更かしなどによる睡眠不足、朝食をとらない、栄養の偏りなどによってさまざまな問題が生じている。これらのこと から、病気の治療や予防のためには家庭の役割が重要である。
(久保千春)
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