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▼本号のテーマは中高生の性教育であるが、性行為には妊娠という結果が常につきまとう。私の小さなクリニックでさえも、柔道の練習で骨盤を痛めて整形外科でレントゲン写真を撮ったら、胎児の骨格が写ったという中学生。月経量が少なく腹痛があると母親に付き添われ、超音波画面に八カ月の胎児を見つけた高校生など、思いもよらなかった妊娠、しかも中絶する時機を逸したという問題を抱えた中高生を診察したことがある。
中絶は倫理的でない、胎児にも生きる権利がある、命を粗末にする行為等々の中絶に反対する論理もある。しかし、目の前の悩んでいる女性にそのような理想を説いても何の解決にもならない。
▼デミ・ムーアが自ら制作し主演した「Three women―If These Walls Could Talk」というアメリカのTV映画がある(日本のDVDのタイトルは「スリーウイメン」)。一軒の家に異なった時代に住んだ三人の女性の歓迎されない妊娠の物語である。
第一話はデミ・ムーアが自ら主演した。妊娠中絶が禁止されていた一九五二年、戦死した夫の家族と住んでいる未亡人が、夫の弟の子を妊娠してしまう。保守的な一家のためそのことを秘密にしなければならず、非合法な堕胎屋に依頼し、大出血のため死んでしまう。第二話の主人公は子どもの学費や生活費をやりくりしている一九七〇年代の四人の子持ちの女性。妊娠した子を中絶するかどうするか迷ったあげく産む決心をする。そして第三話の主人公は指導教授の子を妊娠した一九九六年の女子大生。不誠実な教授の態度に中絶を決意する。妊娠初期の中絶はすでに法律的に認められてはいたが、中絶反対論者がデモする中、手術のために女性保健センターのクリニックを受診する。彼女の手術の最中、クリニックに乱入した熱狂的反中絶運動家により、手術を担当した女性医師は射殺されてしまう。
何ともやりきれない映画であるが、第三話の女子大生が医師に「貴方はなぜこの仕事を続けるの」と尋ねる場面がある。「中絶が違法だった時代に逆戻りしてはいけないから」そして「女性たちの助けを求める声が聞こえるから」という医師の答えこそが、デミ・ムーアがこの映画を制作した意図そのものであろう。
▼中絶は違法でなくなったとはいえ、現在においてもアメリカでは保守層の中絶反対論は根強い。中絶医一人を殺すことにより、何百人もの胎児の命を救うことができる、という理屈によるテロも横行しているという。
幸いそのような話を聞かない日本で働けるということを私たち産婦人科医は感謝しなければならない。しかし、わが国では母体保護法で経済的理由による中絶が認められていることを、あまりにも当たり前のことと考えていないだろうか。
▼性教育は、特に女性にとって、生き方の教育でもある。性行為の結果が必ずしも幸せな人生に結びつくことではない。性感染症、望まない妊娠の結果の中絶、出産にいたったとしてもその後の育児放棄や虐待など、将来の人生を変える可能性があることを子どもたちに考えさせなければならない。
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