こころとからだを科学する
教育と医学
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編集後記
第53巻12号 2005年12月
▼日本で発展してきている「心理リハビリテイション」という障害児の発達支援プログラムによる動作法が、韓国、マレーシア、タイ、インド、イラン、カンボジアなどのアジアの国において実践されています。今年も韓国での「第10回韓国心理リハビリテイションキャンプ」に参加しました。
 今年の参加者は、障害児(トレーニー)と保護者そして訓練をするトレーナーや運営スタッフなどで、120名を超えていました。これまでに韓国キャンプには何度か参加していますが、リピーターが少なく、知った顔のトレーニーにあまり会えません。しかし、参加している保護者は極めて熱心であり、私たち日本から行ったスーパーバイザーなどに、いつ頃治るか、どのような方法が一番良いか、日本での治療効果はどうかなど懸命に質問してきますので、翌年も参加するであろうと思っていました。
▼このように熱心な人たちがリピーターとして参加しないのはなぜかを韓国の主催者に尋ねました。
 すると、「韓国人は、熱しやすく冷めやすいので、新しいものにすぐに熱中しますが、見限りも早いのです。そして、実際に多くの保護者はわが子の障害がすぐ治ると思っているのです。だからキャンプへの期待はすごく大きいのです。それが期待通りにいかなかったときには、もう次の方法に移っていきます」ということでした。
 日本でのキャンプ参加者は、30年続けて参加する人がいるように、効果を長い目でみようとしているからリピーターが多いと言えます。つまり、その違いはキャンプでの効果は期待しつつも子どもの障害がそれほど簡単に治るものではない、という障害児のもつ障害のとらえ方と、日本人は熱しにくく冷めにくい、ということでしょうか。
 何らかの新たな治療的な方法に対して「熱しやすく、冷めやすい」という韓国人の国民性に対しては、早く目に見える効果を示すこと、すなわち結果を曖昧にせず、評価を強く意識しなければなりません。日本人は少しでも効果があれば、というように短期での結果の評価を強く求めることは少ないようです。
▼しかし、このような違いの根底は、単に国民性だけではなく、障害児の障害に対する見方の違いがあると思われます。すなわち、「障害が治る」という理解の仕方です。ずっと以前は、日本でも障害児の障害は「治らない」という絶望的な考え方か、「障害が治る」という期待感だけの見方が、日本でも主流だったと思われます。それが、これまでの障害児に対する発達援助の実践を通して「障害それ自体が治ることはない、しかし子どもたちは変化し発達する」という経験と知識が保護者に定着してきたようです。それだからこそ私たちは、障害児の発達援助の効果をしっかりととらえるとともに、その基盤となる保護者に対しての支援も大切なこととなります。
(針塚 進)
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