著者佐藤文香より


『G.I.ジェーン』とフェミニズムの間で

W 「軍隊
女性」に「軍隊女性」を包括して

この着想を得るにあたって、クラーク大学の国際政治学者、シンシア・エンロー氏の著作との出会い は大きかった。彼女は、社会が軍事化というプロセスを辿っていくには、女性の分断という「策略」が不可欠であること、分断の障壁によって、女性たちが互いを知らず、関わらず、時に敵対的であることで、軍事化はスムーズに進行し得るのだと主張していたのだ。
もし、そうであるなら、なおさらのこと、「軍隊と女性」の問題を考えるにあたって、「軍隊の女性」を見つめることは不可欠なことのように思われた。軍隊に対する女性の関係を、「被害者としての女性」という一枚岩のものとして見るのではなく、自衛隊が女性たちに何かを与えつつ、彼女たちから何かを得ていくその仕組みを正確に見つめるべきだと思うようになった。
自分の背丈の2倍以上はあろうかという大型車を運転する女性自衛官は充実した職業につくことのできた喜びを噛みしめていた。何十人という男性の部下を意のままに操る女性指揮官は己の職業に誇りを持っていた。田舎の両親に仕送りする女子防大生は早くからそうして親孝行のできることを国に感謝していた。自衛隊に対する敵意を感じながら育ってきた自衛官の娘はその敵意を自らを否定された記憶として心に刻みこんでいた。彼女たちに喜びや誇り、金銭や安定、安心や仲間意識といったさまざまなものを与えながら、それぞれの者をそれぞれに「適した」配置へと送り出していくその仕組みをきちんと見ること、そのことこそが必要なのだと思えた。
「軍隊女性」という問いには、「軍隊女性」をも含められなくてはならない、それが、3年間にわたる自衛隊の女性たちとの出会いを通じて、私が出した唯一の答えらしきものであり、本書はそのためのほんの一片のピースを提示したにすぎない。「軍事組織とジェンダー」という巨大なテーマ設定ゆえに学ぶべき領域は広大であり、不十分な記述には忸怩たる思いが残る。殊に、自衛隊の歴史や平和運動の歴史については、たくさんの穴があいていることと思う。読者諸氏のご叱正とご教示をお願いする次第である。

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