慶應義塾機関誌

 三田評論
  明治31年3月創刊(毎月1回1日発行)
   発行:慶應義塾 編集人:慶應義塾広報室長 編集・制作:慶應義塾大学出版会

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  慶應義塾史跡めぐり    
     
  第102回──三田評論 2015年8・9月合併号    
 

三田通り周辺

 
 
 
     
  山内慶太(慶應義塾大学看護医療学部教授)  
     
 

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削りとられた山の下

 三田通りの景観が大きく変ったのは、昭和十二年のことである。三田通りの途中から今日の塾の正門の前を通って魚籃坂下・白金方面に抜ける幅の広い道路が通ったのであった(現在の国道一号線)。そして、昭和三十三年になって、その道路に面して正門(南門)が出来たことで、塾生の動線も変った。


 以前は、塾の敷地の南東の角には福澤先生の邸宅があり、崖を下った辺りに、一人乗りの小舟を浮かべられる池や、「ガアデン」と称する鉄棒やブランコの置かれた芝生の庭などがあった。この切り通しの道路は、丁度その部分を大きく削り取って作られたのである。


 なお、この道路ができる以前は、塾の南側の道路は、今の三井住友銀行の辺りから斜めに中等部の方に続く通り(地蔵通り)しかなかった。


 正門向って左手、今日ラーメン二郎のある辺りの敷地が三角になっているのも、後からできたこの大きな道路のせいなのである。


昭和12 年以前の慶應義塾周辺の道路
昭和12 年以前の慶應義塾周辺の道路


 さて、この斜めに走る昔からの道路に面して、演説館の崖の下、消防署の隣に木造の古い家がある。今日堀越整骨院となっている建物である。これも空襲から焼け残った往時を偲ぶものであるが、 実は小泉信三が明治二十八年、十七歳の時から大正元年、二十四歳まで過ごした家である。


 小泉信三の父信吉は福澤先生の愛弟子であったが、早く没したため、残された家族を心配した先生は自分の邸内に呼び寄せ、先に触れたガアデンの脇にあった家に住まわせた。そこから母、姉妹と共に引っ越したのが、今も残る家で、小泉は、


「大体毎朝裏木戸を明けて塾に行き、日が暮れてまたその裏木戸から家に帰るという日々を過ごした」(「わが住居」)という。


 三田通りをはじめとする三田の町並みも大きく変貌した。空襲によって、そして周囲のオフィス街化によって、更に、平成に入ってからの道路の拡張等によって、戦前から残っていた店もその多くがなくなった。藤波文具店、天ぷらの岡田家、慶應グッズを取り揃えていた慶應堂、和菓子の青柳、清水書店……という具合である。


 しかし、今日でも、例えば六大学野球の優勝パレードでは、赤羽橋から三田通りに入った時の商店街の人たちの出迎えに、わが町に帰って来たと誰もが感じるのである。
  店は時代と共に入れ替わり、町並みが変わっても、時に往時の町並みとそこで生活したかつての塾生の姿を想像しながら、三田界隈を歩いてみたいいものである。




(「慶應義塾史跡めぐり」は、今回が最終回となります。〈編集部〉)

 
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これまでの史跡めぐり
本連載は終了しました。
バックナンバーをご紹介しています。

第102回
三田通り周辺


2015年8・9月合併号掲載

第101回
武藤山治


2015年7月号掲載

第100回
金玉均


2015年6月号掲載

第99回
大講堂


2015年4月号掲載

第98回
阿部泰蔵と門野幾之進


2015年3月号掲載

第97回
日吉キャンパスの遺構と施設


2015年2月号掲載

第96回
学食の変遷


2014年12月号掲載

第95回
神津家の人々


2014年11月号掲載

第94回
水上瀧太郎
──文学と実業の二重生活


2014年10月号掲載

第93回
関東大震災とキャンパス
──三田・四谷の被害と復興


2014年8・9月号掲載

第92回
堀口大學


2014年7月号掲載

第91回
陸上・水上運動会の変遷


2014年6月号掲載

第90回
平和来
──卒業二十五年塾員招待事始夫


2014年5月号掲載

第89回
望郷詩人──南紀の佐藤春夫


2014年4月号掲載

第88回
下田グラウンド


2014年3月号掲載

第87回
予防医学校舎と食研
──空襲の痕跡


2014年2月号掲載

第86回
新田運動場


2014年1月号掲載

第85回
越後 ──西脇順三郎と吉田小五郎


2013年12月号掲載

第84回
修善寺 ──幼稚舎疎開学園


2013年11月号掲載

第83回
神宮球場


2013年10月号掲載

第82回
富士見高原
──空気はよし風俗は朴素なり


2013年8・9月号掲載

第81回
みちのくの史跡を訪ねて
──能代・弘前・木造


2013年7月号掲載

第80回
紀州和歌山と義塾の洋学


2013年6月号掲載

第79回
福澤先生と演劇──三つの劇場と三人の歌舞伎役者


2013年5月号掲載

第78回
ヨネとイサム・ノグチ──二重国籍者の親子


2013年4月号掲載

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