Browse
立ち読み
 
 

 

ケース・ブック1
 ケース・メソッド入門
 はしがき




ケース・ブックII
 挑戦する企業
 はしがき
 あとがき
 




ケース・ブックI
  ケース・メソッド入門
  書籍詳細
 



ケース・ブックII
 挑戦する企業
  書籍詳細
 


 

 

 「ケース・ブック」と銘打った本は近年数多出版されているが、通常それは、事例研究を集めた本のことである。本書のケースは事例研究というより、教育の材料としてのケース、経営教育のための討論に用いるケースである。事例研究と教育用ケースは共通性もあるが、やはり狙いとするところが違う。本書のケースを事例研究だと思って読むと、「何だこれは、研究目的、方法、仮説、検証、議論、結論といった一連の手続きをふまず、特定会社の物語かルポルタージュみたいだ」と失望するかもしれない。ケースは1人で読むだけではなく、クラスで多数の参加者が緊張感を持って討論してこそ輝きを放つものなのである。

 アメリカのハーバード大学経営大学院(HBS)が1世紀近く前から徐々に開発し、今では世界中のビジネス・スクールで多かれ少なかれ利用されている教育方法がケース・メソッドである。わが国では、学者養成ではなく高度な経営専門職大学院(プロフェッショナル・ビジネス・スクール)の先駆者であった慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)の修士課程(MBA)が、ほぼすべての科目をケース・メソッドで教育しており、世界のビジネス・スクールでも最も忠実なケース・メソッド重視のビジネス・スクールであった。KBSの創設期からそこで働いていた私と古川公成教授が中村学園大学において始めた「ケース・メソッド研究会」で、ケースによる教育とケース作成の実践の中から生まれた産物が本ケース・ブックである。本書に収められたケースはすべてその研究会で用いられ、議論されたケースである。この研究会で初めてケース・メソッドによる指導を経験した人、初めてケースを作成した人も少なくない。それゆえ、HBSのもののように成熟した成果というよりは、“emerging”なケースブックと呼んだほうがよいかもしれない。

 石田が福岡に移り住んで1年ほど経った頃、ある学会の九州部会が開かれ、その場で参会者にケース・メソッドの研究会を試してみたいと話すと、ビジネス・スクールを始めたばかりの九州大学の星野、九州産業大学の井沢、西南学院大学の藤岡教授らが賛同してくれた。中村学園大学の古川流通科学部長と共に研究会を開始してから4年、月1回の研究会を重ねてすでに三十数回を数える。九州各地だけでなく、隣県宇部の山口大学大学院技術経営研究科の大久保教授や別府の立命館アジア太平洋大学福谷教授らも参加するようになった。

 ケース作成の口火を切った星野さんが「エバーグリーン」という台湾企業のケースを書いて研究会の討論に供した。東京方面からもケースを携えて現れる人も多くなり、高千穂大学高田さんの「聖路加国際病院」、慶應義塾大学総合政策学部飯盛さんの「ライフコンプリート」、地元九州では大分の山邑さんが「下町のナポレオン」を書き、中村学園大学藤川さんの「博多の起業家」、中谷さんの「明月堂」と続き、最新のケースは東京成徳短期大学浅岡さんの「巣鴨信用金庫」と中村学園大学山田さんの「ソフトバンク」である。この間、大久保さんは自分の著書などから次々とケースを産出し、星野さんも国際経営やロジスティクスのケースを書き続けた。石田は福岡に来てから起業家の面接調査を始めたが、その研究から2つのケースが生まれた。これらのケースはみな、このケース・ブックに収められている。

 石田、大久保、高田がKBSに登録していたケースをこのケース・ブックに収録するにあたっては、同スクールの好意ある許可を得た。KBSの池尾恭一校長と高木晴夫教授に謝意を表したい。


 わが国では出版が容易とはいえない「ケース・ブック」の刊行に私たちがこだわったのは、ケース・メソッド研究会のメモワールを残したいという動機よりも、経営学の教育や経営者育成に極めて効果的であることがわが国でも実証済みのケース・メソッドによる教育が、日本に導入されて以来50年経っても、なかなか普及しない現状を残念に思い、私たちの経験から「ケース・メソッドの経験の浅いところでも、割合気軽にケースによる経営教育を始めることは可能ですよ」というメッセージを世に伝えたかったからである。それゆえ、ケース・リードの初体験を井沢さんや藤岡さんに書いてもらい、ケース・ライティングの体験を星野さん、中谷さん、山田さん、北さんらが語ってくれた。九州大学、九州産業大学、福岡大学、北九州市立大学、山口大学、立命館アジア太平洋大学などにもケース教育に熱心な教員がほぼ同時的に現れてきたことは心強い。面白いことに、九州大学のビジネス・スクールは通称QBSと呼ばれているようだし、この春に発足する北九州市立大学ビジネス・スクールはK2BSという愛称を考えていると仄聞する。先発のKBSも“後発の有利性”を持つこれらのビジネス・スクールに追いつき、追い越されないようにしてほしいものである。

 このケース・ブックは2分冊からなるが、T『ケース・メソッド入門』には[イントロダクション]に始まり「ローカル企業の展開」「流通・ロジスティクス」「ホスピタリティ・マネジメント」にわたって10のケース、U『挑戦する企業」には「アジアのビジネス」「グローバル経営」「起業家とベンチャー経営」の3章にわたり10のケースが収録されている。ケースはいずれも研究会のメンバーが作成したものである。

 藤川、山田、中谷、石田の4名が勤務する中村学園大学流通科学部には、古川初代学部長が設計した、素晴らしいケース・メソッド用の教室があり、ケース・メソッド研究会は当初からそのクラスで開かれて今日に至っている。毎月の研究会の場と種々の便宜を提供していただいた中村学園大学の中村量一理事長、藤本淳学長、西岡弘晃流通科学部長に感謝したい。

 財団法人貿易研修センター 日本ケースセンターはこのケース・ブックの出版を実現するうえで支援を惜しまれなかった。同センターの大慈弥隆人専務理事と稲葉エツ人材開発部長に謝意を表したい。

 ケース・ブックを出したいということになって、だいぶ前にケース・ブックを出してもらったことのある慶應義塾大学出版会に持ちかけると、快く引き受けてくれて、担当の木内鉄也氏は私たちと議論を重ねながら、ケース・ブック作りに編集者としての力量を遺憾なく発揮してくれた。

2006年12月
共編著者・ケースライター・解説編の執筆者を代表して

石田英夫


 

 

 
著者プロフィール:石田英夫
中村学園大学流通科学部教授・慶應義塾大学名誉教授
※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

他ジャンル

ジャンルごとに「ウェブでしか読めない」があります。他のジャンルへはこちらからどうぞ。
ページトップへ
Copyright © 2004-2005 Keio University Press Inc. All rights reserved.