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『セイヴィング・キャピタリズム』 

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日本経済新聞 2006年2月26日付 朝刊「読書」欄

金融システム論議に格好の題材
  持続的な経済発展を達成する上で金融市場の自由化は望ましいのかという 問いは、重要な課題として経済学では古くから繰り返されてきた。この問いに対する本書の答えはイエス。ただし、本書で著者は自由で競争的な金融市場がうまく機能するためには、政府による適切なルール作りも不可欠であると指摘することを忘れてはいない。自由な金融市場は政府の支援なしには自生しないからである。

  金融市場が機能するには法制度や透明性のある会計制度などの金融インフラストラクチャーの整備が不可欠であるという視点は、ナイーブな自由化論者とは一線を画す新しいものだ。ただし、競争的な金融市場が結果的には望ましいとする立場は、本書を通じて一貫している。
  議論は歴史的考察あり、国際比較あり、制度分析ありと多角的で、論旨も明快である。エンロンなど最近の金融スキャンダルにも言及している。各章で展開され る議論の多くは一流の専門誌に掲載された研究成果に基づくもので、確固としたデータの裏づけもある。自由で競争的な金融市場が望ましいと考えている読者に とって、これほど爽快な本はないかもしれない。しかし、あいまいな議論が少ない分、金融市場の極端な自由化に疑問を感じる読者には、フラストレーションが 溜(た)まる書物かもしれない。
  特に、「リレーションシップ資本主義」に対する批判は、取引関係や縁故関係を基盤としてきた伝統的な日本型金融システムを信奉する人にとって、反論もしたくなるところだろう。もっとも、どちらの立場の読者にとっても、一読の価値があることは言うまでもない。
  今日、日本の金融システムは大きな変革期に入っている。今後どのようなシステムの制度設計をしていくことが望ましいのかを改めて考え直すのに、間違いなく 本書は格好の題材を提供してくれる。内容も取り扱っている問題の深さを思えば、一般の読者向けに非常に平易に書かれているといってよい。最後に付けられた 訳者のあとがきは短いながら、大変バランスの取れた議論が展開されていて、本書の意義を改めて考える上で大変役に立つ。本書を読んだ後に是非一読をお勧め したい。


(堀内昭義ほか訳、慶応義塾大学出版会・三、五〇〇円)
▼著者のラジャン氏は国際通貨基金(IMF)経済顧問兼調査局長。ジンガレス氏はシカゴ大ビジネススクール教授。
《評》東京大学教授 福田 慎一

 

 


 

 

 
 
 

 

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