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巻頭随筆

18歳という言葉の意味      青木玲子

 

 大学教員として、たくさんの18歳の人間に接してきましたが、「大学1年生」という共通点がありました。例外はイスラエルで、18歳から男性は3年、女性は18カ月の兵役の後に大学に入学します。しかし、週末を家で過ごすためにバスに乗っている若い兵士たちは、軍服を着た大学1年生的であったのを覚えています。イスラエルでは、18歳の国民のほぼ全員が兵士で、兵役が大人になる第一歩です。日本の場合は、高校進学率は98.4%(平成26年度文部科学白書)であるのに対し、4年制大学への進学率は48.8%(平成27年度学校基本調査、以下同)、短大を含めても54.5%なので、大学1年生は18歳国民の半分でしかありません。また、専門学校への進学率が16.7%ですから、18歳の国民は高校を卒業する以外は多様です。18歳の国民の大人度はどのようなものか、公表されているデータを手がかりにみてみましょう。

 平成22(2010)年国勢調査によると、338,322人の18、19歳の人口が単独世帯で生活をしています。経済的に自立しているか不明ですが、ある程度自立した生活をしていると推測できます。経済的な独立はどうでしょうか? 残念ながら、年齢別のデータは入手できませんでした。2015年労働力調査によると、15―19歳の就業率は15.6%、20―24歳は64.8%、25―29歳は82.3%です。つまり、20歳未満で経済的に独立している人は大変少ないということです。また、労働統計は必ずしも18歳を切れ目に考えていないこともわかります。

 結婚が大人の証とも考えられます。本人の意思だけで結婚できるのは成人になってからですが、父母の同意があれば、男性の場合は18歳から、女性の場合は16歳から結婚できます。実際、平成22年国勢調査では、結婚をしているのは18歳の男性で2,455人、女性で4,756人、19歳男性は6,293人、女性は10,225人でした。20歳の既婚者は男性が11,273人、女性が20,122人と跳ねあがります。親の同意を得られない20歳未満の結婚希望者がいると推測されます。

 結婚は法的には原則として成人の権利ですが、出産には年齢制限がありません。「親になって大人になった」といった発言がよくありますが、未成年者も父母の同意とも関係なく出産することができます。人口動態調査(平成26年)によると、平成26年に15―19歳で出産した女性は12,968人(第1子出産は11,575人)、平成22年の国勢調査で15―19歳の女性の既婚者は13,123人でした。10歳代の母親が未婚であることが多い欧米とは異なり、日本は若年層でも婚外出産が少ないと言えます。また、20―24歳で出産した女性の数86,590人(第1子出産は58,556人)と比べると20歳未満の出産は顕著に少なく、出産自体に制限はありませんが、結婚年齢の制限との関係で未成年の出産が抑制されているのかもしれません。一方、25―29歳での出産は267,847人(第1子は152,493人)で、20歳になったからといって親になるわけでもないようです。

 とにかく18歳の国民は有権者として国政に参加できる大人です。新有権者は全有権者の約2.2%でしたが、どの政党も新有権者へアピールしたのは、20歳以上の有権者も含めた若い世代へのアピールという意味があったのでしょう。選挙年齢の変更をきっかけに、データによる若者の状況の把握が充実することを切望します。



 
執筆者紹介
青木玲子(あおき・れいこ)

九州大学理事・副学長。経済学博士。専門は産業組織論、応用ミクロ理論。スタンフォード大学大学院経済学部博士課程修了。オハイオ州立大学助教授、一橋大学教授などを経て現職。総合科学技術会議議員(2009〜14年)、情報通信審議会委員(2015年〜)などを務める。著書に『効率と公正の経済分析』(共編著、ミネルヴァ書房、2012年)、『フューチャー・デザイン』(共著、勁草書房、2015年)など。

 
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