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巻頭随筆

「チーム学校」を機能させるには     坂東眞理子

 

 日本の中学校教員の勤務時間は、国際的にみてかなり長くなっています。OECDの「国際教員指導環境調査」(TALIS)の調査結果では、一週間の勤務時間は加盟国平均の38.3時間に対し、日本は53.9時間と最長でした。授業とその準備などに費やす時間は、他の国々とほぼ変わらないものの、部活など課外活動指導7.7時間(平均2.1時間)、事務作業5.5時間(同2.9時間)など、授業以外に費やす時間がとび抜けて高くなっています。これだけ長時間働いているのに、自分の教員としての能力に自信を持たず、自己評価が低いのも目立つ特徴です。「学級内の秩序を乱す行動を抑えられる」は52.7%(全体平均87.0%)、「生徒に勉強ができると自信を持たせる」も日本は17.6%、参加国平均は85.8%です。

 このような状況を変えるにはどうすればよいでしょうか。私は、ここに「チーム学校」の仕組みを取り入れるべきではないかと思います。申請書類を作成したり、教育委員会や外部からの調査、アンケートへの回答など教員でない人でも十分できる仕事はそういう人に任せたほうが効率的です。きっと公立学校ならば地域に、私立なら卒業生や保護者など協力してくださる方はいらっしゃるはずです。特に60代から70代の前期高齢者の方々は、実費プラスアルファの有償ボランティアとして手伝ってくださる方は多いのではないでしょうか。部活動の指導も外部の専門家にお願いすべきです。教員も自分の得意な分野なら指導もできますが、中学校の部活顧問の教員の52%は「その分野の経験なし」です。学校管理上教員が関わらなければならないのかもしれませんが、名ばかり顧問はよくないですね。

 児童生徒を学内に閉じ込め、教員だけですべてを抱え込むのは限界です。教員は学力指導の分野では専門家ですが、総ての分野をカバーするわけではありません。

 学校医はもちろん、スクールカウンセラーなど、いろいろの専門家が力を合わせて学校教育を支えることで学校が本当に機能を発揮することが期待されます。

 実は大学でも外部の人材の助けを得ることで充実した教育をすることができます。たとえば昭和女子大学は、社会人メンターを外部の女性たちにお願いしています。女性を取り巻く環境が変わり、生涯設計が変わるなかで母親や教員以外の大人の女性からアドバイスを受けることは、学生たちの目を開かせてくれます。また現代ビジネス研究所の実務家研究員の方たちは様々なご自分の研究をされるとともに、教員とチームを組んで学生のプロジェクト学習を指導してくださっています。いろいろな経験・知識を持つ方々と触れることによって、学生たちは大きく成長します。同じように児童生徒も校外の方々と関わり合うことで豊かな経験ができ成長すると思います。

 しかし「チーム学校」を機能させるには、外部の専門家をコーディネートする人が必要です。お互いの事情を知り、理解して必要な時に必要な能力を持った人をしっかりマッチングする、そうした人がいて初めて「チーム学校」は機能を発揮することができます。教員だけではなく、コーディネーターとしての役割を果たせる専門家もこれからは必要です。

 

*ホームページ転載にあたり、一部加筆修正しました。



 
執筆者紹介
坂東眞理子(ばんどう・まりこ)

学校法人昭和女子大学理事長。東京大学卒業後、総理府入省。埼玉県副知事、ブリスベン総領事、内閣府男女共同参画局長を歴任。2004年昭和女子大学・女性文化研究所所長、07年同大学学長(2016年3月まで)。著書に『女性の品格』(PHP新書、2006年)、『日本の女性政策』(ミネルヴァ書房、2009年)、『女性の知性の磨き方』(ベストセラーズ、2015年)ほか多数。

 
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