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巻頭随筆

言い出しっぺの子どもしか、リーダーシップはないのか?  古川久敬

 

 意味づけを間違うと、現実を、そして子どもたちの頑張りや能力についての評価を大きく誤ってしまう。「リーダーシップ」もそのひとつです。

 かつて「リーダーシップ」という概念が生まれたのは、集団が活動し、成果を上げるには、いくつかの基本機能が満たされることが必要にして不可欠であると気づかれたためです。

 それらの基本機能とは、課題や目標を見つけ、提案するだけではありません。それを受け止め、やり方を考え、メンバー間の発想や意見の違い、折り合いの難しさ(溝)、そして立場や利害の違い(壁)を乗り越え、不得意を補い合いながら、根気よく取り組み、仕上げる。さらに成果を喜び合い、併せて振り返りや反省により、その後の活動につなげることなどが含まれています。

 これらのいずれが欠けても、集団は機能せず、成果は出ません。そのために、これら一連の機能を、機を見て、集団内の誰か(責任者やリーダーとは限らない)が担い、務めることの大切さを説くために、「リーダーシップ」の言葉が生まれました。つまり「シップ」(ship)が“みそ”です。リーダー性、すなわち「あたかもリーダーのように」「ちょうどリーダーの感じで」が、その意味です。集団の責任者やリーダーだけのことを指しているのではありません。集団にとって必要なことを担い、動き、尽くすことを指しています。

 そんなことから、入社してすぐに管理者(責任者)になるわけではないのに、企業は、採用する大学生に対して、「リーダーシップ」をしっかりと問うているわけです。

 わずかな時間ですむ遊びであれば、リーダーシップの問題はかなり単純です。しかし、現実の仕事は、何か思いつきさえ出せば実現するわけではありません。その後にアイデアを拡げ、練り上げる。必ず出くわす数々の「壁」や「溝」を越えながら、粘り強く進めることが必要です。

 最近では、学校や病院を含めて、新たなことに、内外と連携をしながら取り組む機会が格段に増えています。皮肉なことに、創造的で有望と思えるアイデアや企画ほど、「壁」や「溝」に出会って、実現に至らないことも再々です(詳しくは拙著『「壁」と「溝」を越えるコミュニケーション』を参照)。

 言い出すだけでは、事は成就しません。言い出す人が多くいるだけでも混乱し、船は山へ登っていきます。前述したように、集団活動には、メンバーによる一連の地道な「リーダーシップ」(リーダーのような振る舞い)が重要です。

 提案はしても飽きっぽい人がいます。独りよがりもいます。他との協調や粘りが足りない人もいます。それらと全く逆の人もいます。よくしたもので、つきあいも、誘い上手(働きかける側)だけでは成り立ちません。誘われ上手がいてくれて進んでいます。

 こうして、リーダーシップを「何かを始めること」「初めにアイデアを出すこと」「言い出しっぺになること」という意味だけではとらえない。そうしないと、言い出さない人たちは、「リーダーシップ」のない人たちということになってしまいます。

 リーダーシップについての意味づけを正しく理解して、評価を誤らないようにしたい。


 
執筆者紹介
古川久敬(ふるかわ・ひさたか)

日本経済大学大学院経営学研究科教授。九州大学名誉教授。教育学博士。専門は組織心理学、人的資源管理。九州大学大学院教育学研究科修士課程修了。著書に『「壁」と「溝」を越えるコミュニケーション』(ナカニシヤ出版、2015年)、『組織心理学』(培風館、2011年)、『看護師長・主任のためのグループマネジメント入門』(日本看護協会出版会、2010年)ほか多数。

 
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