Browse
立ち読み
巻頭随筆

夏の子どもの体とこころの健康管理     原 寿郎

 

 夏の子どもの健康管理には、肉体的健康管理と精神的健康管理の両方が必要です。肉体的健康管理の中で、まず体温管理が不十分であるため発症する熱中症がありますが、むしろ過剰冷房で体調を崩す子どものほうが多いかもしれません。室外と5℃以上の気温差があると、自律神経系が気温変化に十分対応できず、自律神経失調症に似た疲労感、食欲不振などを呈することがあります。また日焼けは、数十年前までは健康の象徴のように思われていました。しかしオゾン層の破壊に、伴い紫外線の量は増加し、有害な種類の紫外線が多くなっています。子どものうちから過剰な日焼けを繰り返すと細胞のDNAに傷害を受け、将来的に皮膚がん発症の可能性があり、また目を痛めたりすることも分かってきました。しかし外で遊ばせないのではなく、紫外線が多少あっても十分に遊べる工夫をすることが大事です。

 夏の感染症は、食中毒・胃腸炎、皮膚感染症が多いので、食品の加熱や手洗いに注意が必要です。プールなどで汚染された水を飲むことで発症するプール関連疾患としては、アデノウイルス感染症(プール熱)、ノロウイルス感染症、赤痢、病原大腸菌感染症などがあります。また吸血性の節足動物が病原体を媒介して起こる感染症として、日本では、蚊が媒介する日本脳炎、ダニが媒介するつつがむし病、日本紅斑熱、ライム病、ロシア春夏脳炎などがあります。2012年秋にマダニが媒介する新しい感染症として、SFTSウイルスによる重症熱性血小板減少症候群が日本で初めて見つかりました。高熱、嘔吐、下痢、血小板・白血球減少などを呈し重症化すると死亡することがあります。西日本から患者発症の報告が多く見られますが、ウイルスは全国的に広く存在しています。この感染症を防ぐためには、草木が茂る所に入る際にできるだけ皮膚の露出を避ける注意が必要です。蚊が媒介するデング熱は、かつて熱帯・亜熱帯地域に限定されていましたが、最近では温暖化に伴い台湾、ハワイでも流行がみられます。日本では現在のところ、国内でのデングウイルスの定着は確認されていませんが、2013年9月に日本を旅行したドイツ人がデング熱に感染したという報告がされています。このウイルスを媒介する能力を持つ蚊は身の回りに生息していますので、今後は日本でも蚊に刺されると単に“かゆい”だけで済まない時代になりつつあるのかもしれません。また最近は、冷房の普及、南半球への旅行などのためか、夏の感染症の季節性が減少し、従来冬に流行していたロタウイルス感染症、インフルエンザが真夏に流行することもあります。

 精神的健康管理としては、夏休み後の不登校を防止するためにも規則正しい生活を送り、昼夜逆転など体内時計が狂わないようにする必要があります。残念ながら最近はラジオ体操が行われている期間・地域が減少しています。高齢者が一緒になって地域の子どもの健康を守る活動(早朝ラジオ体操など)の普及が望まれます。またゲーム依存、インターネット中毒、電子媒体を用いたいじめ・悪口・悪い誘惑などにも注意が必要です。インターネットは現代社会には不可欠のものとなっていますので、使用時間制限などを決めながらまずは安全に使いこなす方法を身に付けさせることが大切です。夏休みには健康管理はもちろんですが、普段できないような創造的実体験を経験させることが、その後の子どもの成長につながると思います。


 
執筆者紹介
原 寿郎(はら・としろう)

九州大学大学院医学研究院・医学部小児科教授。医学博士。専門は小児科学(臨床免疫学、臨床遺伝学、川崎病)。九州大学医学部卒業。オクラホマ医学研究所研究員、佐賀県立病院小児科部長、鳥取大学医学部助教授を経て現職。著書に『小児の発熱 A to Z』(編著、診断と治療社、2012年)、『標準小児科学〈第8版〉』(共編、医学書院、2013年)など。

 
ページトップへ
Copyright © 2004-2014 Keio University Press Inc. All rights reserved.