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巻頭随筆

親や家族の方たちの思い     針塚 進

 

 子どもをもつ家族の共通した思いは、子どもの健やかな成長と発達でしょう。しかし、子どもの健やかな成長と発達が危ぶまれると、母親、父親、祖父母そして同胞などそれぞれの立場で家族のだれもが心配し、健やかな成長と発達への願いをより一層意識化します。

 一番はじめは、わが子に本当に障害があるのだろうかという問いと不安が生じ、病院等での診断や専門機関でのアセスメントを求めることになります。そして、母親や父親は「なぜうちの子が障害となったのか」という自責の気持ちとともに「どうしようもなさ」を感じつつ、子どもの今後を案じ、「子どもが立って歩けるようになるだろうか」「言葉を理解し話せるようになるだろうか」、そして「普通学校に行けるようになるだろうか」などといった不安をもって、相談・療育機関を訪れます。

 子どもが不登校になってしまったと思い悩む親は、「なぜうちの子が不登校になったのだろうか」という疑問を抱きつつ、「何時になったら学校に行けるようになるのだろうか」、そしてできるだけ早い時期に登校できるよう願って、相談支援の専門機関を訪れます。

 子どもの健やかな成長や発達または病気によって健康を妨げられると、親をはじめとして家族は子どものことで精いっぱいになり、何とかしたい、何とかならないかと懸命な努力を傾けます。子どもの治療や療育相談のために病院や相談機関に行くことはもちろんのこと、宗教や占いなどに救いを求めることもあります。それは、子どもが自分たちにとってかけがえのない存在だからでしょう。

 しかし、子どもへの深い思いがある一方で家族にはそれぞれの生活があることから、時に「この子が居なかったら、こうでなかったら、と思ってしまうダメな親です」と言って自分を責める言葉を聞きます。親にとってその子どものことが疎ましく感じられるということもあります。そのことを「子どもの問題を受け入れていない親だ」などと言って、由々しきこととして親や家族を非難してしまうことすらあります。

 健やかな成長と発達が危ぶまれる子どもには、医学的な治療や心理的な発達の支援あるいは教育的な特別な支援が必要です。そのために、そのような子どものアセスメントや理解、そしてその治療や支援をいかに行うかを考え実践していくことの重要性は、言うまでもありません。ただ、そのような治療や支援の場を求め、子どもを連れてくるのは、親や家族です。また、生活のほとんどを共にし、日常の中で養育するのも、家族です。その親や家族自身も子どもへの愛おしさとともに、先の見通しをもてない焦りなどに悩んだり、混乱したりと、様々な思いを抱えています。

 健やかな成長と発達が危ぶまれる子どもへの支援は、子ども自身への支援と同等以上に、親や家族の多様な思いへの理解と支援が不可欠だと思われます。

 
執筆者紹介
針塚 進(はりづか・すすむ)

九州大学大学院人間環境学研究院教授。教育学博士。専門は臨床心理学。九州大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。山形大学教育学部助教授、九州大学教育学部助教授などを経て現職。著書に『講座 臨床心理学4巻・異常心理学U』(共著、東京大学出版会、2002年)、『障害動作法』(共著、学苑社、2002年)、『臨床心理学研究の技法』(共著、福村出版、2000年)、『軽度発達障害児のためのグループセラピー』(監修、ナカニシヤ出版、2006年)など。

 
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