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巻頭随筆
発達障害児への支援から共生へ  村田豊久        
 

 発達障害児への支援の体制は年ごとに充実したものになり、支援に携わる人々の熱意は高まり、発達障害児への社会の認知も深まっているのは確かであろう。それは、教育と医学の会の設立者の一人で初代会長だった牛島義友先生が、自ら御殿場コロニーを立ち上げ、障害児の抱える問題を世に訴えられた50年前と比べるとまさに隔世の感がある。「教育と医学」では1953年の創刊以来毎年、障害児の対応のあり方についての特集号を編集し、いかにしたら障害を持つ子どもたちが安心して健康に生活できるか、社会の中に自分の居場所を持てるようになるかを論議してきた。そして、1953年の「教育と医学」の障害児特集号を再読しても、発達障害児への対応はすすみ、いろいろの領域の方が関わるようになり、少しずつながらも社会の人々の理解も進んできたことがわかる。

 では、今の対応がもっと深まり、支援の体制がもっと充実しただけで発達障害児はこの社会で幸せに暮らしていけるかと考えると、課題がまだまだ多いことを痛感せざるをえない。一応の支援体制が整い、支援に取り組む人々が多くなった現時点が、やっと本当の発達障害児支援の出発点であるように思う。

 これまで支援は障害を持つ子どもの受け持ちの教師や治療者、あるいは同じグループのスタッフが単独で、日々熱心に働きかけを続けていた。しかし、支援は一人でやれるものではない。学校、福祉機関、医療機関で仕事をする様々な職種のプロフェッショナルとの連携がどうしても必要である。他の領域の人々と子どもの現在・未来をどう考えるかを話し合い、そのような連携のもとで支援を続けていくことが、発達障害の子どもにも、支援に当たる方々にも恩恵をもたらす。これまでも連携の動きはあったが、教育、医療、福祉の各領域の縦割りの仕組み、横割りの制度の壁があり、なかなか実効をみなかった。制度的に困難な場合は支援者同士という個人レベルの連携からまずすすめてもらいたい。

 さらに大切なことは、支援とは、わからずにいる人に教えてやる、困った人を助けてやる、苦しんでいる人を治療するということではない、と各人が銘記することであろう。障害を持つ子ども、障害を持つ人の気持ちに寄り添って、どう苦しいのか、どう困っているのかを本人の身になってわかってやろうと努めることである。そして障害を持つ子ども、障害を持つ人が持つ困難や苦痛は、程度の差はあっても、支援にあたる人も持っていることを自己認識しなければならない。支援者もこの世に住むからには、毎日不安と対峙し、様々な苦痛を持ちながらやっと生活している。だからこそ、障害者支援ということに熱意を持ち、ひかれていったのである。ここでその認識をもう一歩すすめ、この世で同じく不安と生活苦を持ちながら生きようとしている者同士が、今は支援を受ける立場と支援をする側にいるという理解を持てればと思う。すると、支援される人の喜びは、支援する人の喜びとなり、支援の行為はさらに深まっていくであろう。ともにこの世で、不安を持ち、苦痛を抱えながら頑張って生きようとしているもの同士であるという連帯感が生まれることになる。

 「教育と医学」に2年間連載をされた田中康雄先生の論考がまとめられこのたび刊行されたが、そのタイトルは『支援から共生への道』である。支援される側と支援する側という垣根を超え、ともに同じ目標に向かって一緒に生きるという行動がこれからの発達障害児の支援の基本となるべきであるということと理解した。まさにこれであろう。

 

 
執筆者紹介
村田豊久(むらた・とよひさ)

村田子どもメンタルクリニック院長。医学博士。専門は児童精神医学。九州大学大学院医学研究科博士課程修了。九州大学医学部附属病院、福岡大学医学部助教授、九州大学教育学部教授などを経て現職。著書に『自閉症』(医歯薬出版、1980年)、『子どものこころの病理とその治療』(九州大学出版会、1999年)、『子ども臨床へのまなざし』(日本評論社、2009年)、『子どものこころの不思議』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

 
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