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巻頭随筆
障害を見直す  若林愼一郎         
 
 

 「障害」については、世界保健機構(WHО)の世界保健会議によって『国際障害分類』が作成され、図1のように障害は「機能障害」「能力障害」「社会的不利」の3つに分けて考えられていた。しかし、この分類は(1)主観的・心理的観点が乏しい、(2)環境因子の関与が表現しにくい、(3)児童分野では適用しにくい、などの批判があった。
 そこで、2001年に、改訂された新しい国際分類『国際生活機能分類』が採択された。この新しい分類では図2のように、『健康状態』における病気や変調などの「機能障害」を『心身機能・構造』が障害された状態としてとらえ、それを直ちに「能力障害」とはせず、『活動』という概念を用い、環境因子や個人因子などの背景因子によって『活動の制約』とした。そして、それが「社会的不利」になるのではなく、『参加の制限』として考えるようになった。したがって、参加すべく挑戦することが求められるとともに、社会もこれを受け入れて共に生きる社会とすべく、一緒に挑戦することが求められるようになった。
 このように、障害に対する用語や概念ならびに考え方は時代とともに変遷してきている。したがって、障害児・障害者に対する理解や対応もそれに応じて変化していかなければならない。
 子どもに関しては、現代は“発達障害の時代”ともいわれている。そして、世界保健機構の精神障害の『国際疾病分類(ICD-X)』や米国精神医学会の『精神疾患の分類と診断の手引き(DSM-IV-TR)』などにより、子どもの発達障害の分類・細分化がなされてきた。しかし、分類が細密化されたことは、それなりの意味はあるが、それが直ちに障害児・障害者のためになるとは限らない。問題は、障害をもった人たち個々の養育、教育、医療、福祉などの面において、どのように個々に適切に対応することができるかということである。
 学校教育においては、注意欠陥多動性障害や特異的発達障害を含む「学習障害」が、2006年の『学校教育法等の一部を改正する法律』によって“特別支援教育”として配慮がなされるというが、未だ緒についたばかりである。
 今後の課題としては、当初は障害をもった子どももやがては青年となり成人となっていく。したがって、発達のそれぞれの時期に、より適切な教育と医療、就職や福祉を含めた社会生活を保障していくことが必要である。そのためには、各発達段階の障害をもった障害児・障害者の本人自身の体験談を知ることができたり、親・関係者の話などを謙虚に拝聴することができれば、大いに参考になるのではないかと思われる。他方、近年の脳科学的アプローチによる障害についての研究の発展も期待されるところである。

図1 国際障害分類 図2 国際生活機能分類  
 
執筆者紹介
若林愼一郎(わかばやし・しんいちろう)

元岐阜大学医学部神経精神医学講座教授。医学博士。専門は児童精神医学。名古屋大学大学院医学研究科博士課程満了。主要著書に、『登校拒否症』(医歯薬出版、1980年)、『自閉症児の発達』(岩崎学術出版社、1983年)、『児童期の精神科臨床』(金剛出版、1984年)、『小児のノイローゼ』(医歯薬出版、1985年)など。

 
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