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編集後記  第64巻11号 2016年11月
 

▼今夏、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックが開催され、連日、日本選手の活躍が報道されました。五輪の舞台で偉業を成し遂げた選手も、残念ながら目標には届かなかった選手も、試合終了後に家族のもとに向かい抱擁する姿は誰の目にも違和感がないどころか、その選手と家族が歩んできたであろう道に私たちも想いを馳せ、心を揺さぶられます。言うまでもありませんが、幼少期から育まれた両親との関係性は、やはり特別なものであることに改めて気づかされます。

▼選手の活躍と併せて、これまでその選手がどのくらい、どのようにその競技に取り組んできたか、そして、いかにその選手を両親が時に叱咤激励しながら支えてきたのか、ということもよくメディアで取り上げられました。
 話されたエピソードで興味深かったのは、選手が苦境にあったときや試合で負けが続いたとき等のご両親の関わりです。「大丈夫と温かく励ましてくれた」「このままではいけないと怒られた」「普段と全く変わらなかった」と、必ずしも同じではありませんでした。もちろん、いつも同じ関わり方をされていたのではなく、同じご両親でも時と場合に応じて異なる関わりをなさっていたことと思いますが、各選手の印象に残っているエピソードに多様性があることはとても面白いように思います。

▼子どもが育っていく過程には実に様々な出来事が起こりますが、その一つひとつにどう関わっていくのが良いのでしょうか。毎度関わり方に悩みながら子育てをされる保護者も多いと思います。それぞれに失敗だったと反省する出来事も皆無ではないと思いますが、特に良くないことを子どもが起こしてしまったとき、保護者のこれまでの子育てにも厳しい目が向けられます。実際、何らかの事件や犯罪が起きてしまったとき、その容疑者がどのような家庭環境のもとで育ってきたのか、多くのメディアが報道します。既に成人していても、幼少期からの保護者との関わりや成育環境に対して関心が集まるのは、それが子どもの発達やその後の人生において良くも悪くも重要な影響を及ぼすと多くの人が思うからでしょう。

▼理想的な関わりや関係性のイメージは何となく共通して持っていても、個々の出来事に対する具体的な関わりと、その結果として構築されていく関係性には、実に多様な選択肢や方向性があります。今月号の特集は「子どものこころの安全基地を育てる―アタッチメントをめぐって―」です。多数の研究や臨床事例からこれまでに明らかになってきたことをもとに、子どもがいかに他者と関係性を育んでいくのか、それは大きくなったときにどのような影響を持ちうるのか、スムーズに関係性が構築されなかった場合はどうなるのか等、複数の視点から解説・議論されています。簡単に解き明かされるテーマではありませんが、この特集号が子どものこころを支える環境について一緒に考えていくきっかけとなれば幸いです。

 

(實藤和佳子)
 
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