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編集後記  第63巻11号 2015年11月
 

▼国は、障害者の雇用を促進するために、障害者の法定雇用率を定めており、民間企業の場合、2013年4月から2.0%に引き上げられている。2014年6月時点の障害者の実雇用率は1.82%で、2.0%を達成した企業の割合は45%と、まだ十分とはいえないかもしれないが、働く障害者の数が毎年増加していることは事実である。
 知的障害を伴わない(高機能の)発達障害者も、現在、精神障害者福祉手帳を保有していれば、障害者としての就労支援が受けられる。ただ、現在の制度下では、発達障害者に特化した雇用義務が企業側にあるわけではなく、一般に発達障害者の雇用は、たとえ高機能のケースであっても、かなり難しいと言われている。

▼最近、大学によっては、発達障害の学生支援の一環として就職活動を支援する学校も出てきている。つまり、在学中の修学支援から就活支援への移行である。というと、障害者雇用枠での就活を指導すれば事は済みそうに思われるが、実際には、なかなか労力と時間を要する。
 例えば、障害者雇用枠で職を求めるには、精神障害者福祉手帳の交付を受ける必要があるが、そのためには、地域の発達障害者支援センターや医療機関で診断・評価を受けなければならない。ハローワークや障害者職業センターとの連携も欠かせない。そもそも、どこの学校も発達障害学生の就労支援の経験がまだまだ少ないのである。実際には、障害をもつ学生自身も、心身の調子を壊さずに、無事に卒業することに精いっぱいで、就職は卒業後しばらくしてからゆっくり取り組もう、ということのほうが多いだろう。

▼以上のように、発達障害の子どもたちが、いずれは学齢期を終えて、社会に出て行く移行期段階の困難を考えると、彼らに対する支援は、できるだけ早期に開始し、かつ、切れ目なく続けられることが望ましいといえる。ただ、こうした支援の原則は、支援する者にも常に一種のジレンマを生じる。支援者が子どもたちの発達特性を早くから「個性」として受け入れてきた一方で、その「個性」をなかなか認めない厳しい産業や社会の現実に彼らを適応させること、いわば多少とも「個性」をたわめることの矛盾にも徐々に直面するからである。
 したがって、移行期支援の難しさは、支援する者の葛藤にも由来する。けれども、移行期の支援は確かに多くの矛盾や葛藤を伴うものであるが、その困難を乗り越える痛みと引き換えに、人々や社会が多様であることへの寛容さも身に付いてゆく。それゆえ、経験豊かな支援者は、多少のことには動じなくなる。楽観主義を是とするようになる。

▼本号の特集に寄稿してくださった方々は、一様に移行期にある発達障害児・者の支援になんらかの葛藤を抱きながらも、忍耐強く支援を続けてこられた方ばかりである。その苦衷と自信とを行間に感じ取ってほしい。

 

(黒木俊秀)
 
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