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編集後記  第61巻7号 2013年7月
 

▼保健師という筆者の職業的背景において、子どもの安全との関わりで身近なのは、乳幼児健診等の場で行う保護者に向けた家庭内での事故予防の健康教育である。

▼乳幼児の死亡原因をみると、0歳児こそ先天性の障害等が上位であるが、1〜4歳では不慮の事故による死亡が第1位となっている。0歳児の不慮の事故の原因は窒息が第1位で、1〜4歳では交通事故、そして溺死・溺水の割合が多くなる。子どもの事故というと、例えば回転ドアの事故のような家庭外で発生した大きな事故が取り上げられることが多いが、実は多くの事故は家庭内で発生しているのが現状である。

▼また、「こどもの事故防止対策についての報告書」(東京消防庁・平成18年)から緊急搬送された事故の状況をみると、0〜5歳児の事故において、「保護者と一緒にいるとき」が90.7%であり、この数字からは、「自分がそばにいたのに」という保護者の心の痛みもみてとれる。しかし、玄関の灯油缶の給油用ポンプから灯油を吸った、といった大人では想像もつかないことがおこるのが現実であり、事故の予防は簡単ではない。

▼子どもの事故の発生の要因を考えると、子ども自身、保護者、人的・物的環境、そして事故が生じた時の文脈(状況)があるだろう。予防の観点からみると、文脈に対する働きかけはできないが、その他の要因は理論上は可能だろう。そして、保護者および人的・物的環境への働きかけは以前よりも進んできている状況が見られるように思う。

▼保護者に対するものとしては、冒頭に記載した健康教育のほか、インターネット上に様々な事故予防に向けたサイトが開設され、手軽に閲覧できるようになっている。事実、乳幼児健診等の場での反応を見ても、一般的なことは十分認知されているように感じている。保健師として伝えることは、子どもの成長段階を予測した上での具体的な方法ということになる。また、高橋氏の論文にあるように、環境要因については社会的な取り組みがみられてきている。

▼あとの要因としては子ども自身である。子ども自身に安全を守らせることに対する教育意識は、海外の保護者に比較し日本の保護者は薄いという調査もある。江尻氏の論文にあるような研究を土台に、子ども自身への教育が今後考慮されるべきだろう。

▼そしてもう一つ、環境の一つである大人の意識の点をあげたい。子どもが危険なことをしていたら、周囲の大人が叱る、これも立派な事故予防である。しかしよく言われるように、いまの問題はそれを保護者が受け入れないことである。これは人との関わりの中で生きていく力の欠如であるように感じる。子どもの事故を予防するためであっても、そのような対象に成人になってからの教育で変化を生じさせることは難しい。事故予防と直接的には関連しないことであるが、この力の醸成も予防のための基盤ではないだろうか。

 

(鳩野洋子)
 
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