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立ち読み  
編集後記  第61巻5号 2013年5月
 

▼臨床心理学を少しでも理解してもらうために、学校は幼稚園から大学の先生まで、公務員関係、企業と研修会・講演会に行く機会が多い。最近は、企業からのストレスマネジメントの研修依頼が多くなってきた。多種多様な対象に研修を行う中で、気づいたことがある。それは、特別支援学級の児童生徒の理解と支援・指導の方法が、企業研修でも大いに参考になるということである。本質は同じものであると最近気づいた。

▼特別支援学級の子どもたちは、学年も障がいも違う。よって、レディネス・ニーズも多様である。一人ひとりのことを理解し、その子どものポテンシャルを見立て、教材・教具を作り、スモールステップでその子どもにわかるように説明をして、できたとき、すぐにほめることである。叱っても、その子どものモチベーションは高まることはない。ほめた後は、若干のアドバイスをする。一人ひとりを支援・指導しながら、チーム力をつけることである。学級の目標を立て、みんなで、それぞれの持っている力を補いながら、一つの目標に向かい、達成感を味わわせることである。その中で、「目標の見える化」「スケジュールの構造化」はとても効果的である。それらの活動を通して、コミュニケーション力はついていく。
 企業も異年齢でポテンシャルが多様な大人の組織である。リーダーは、社員一人ひとりのポテンシャルとレディネスを理解し、仕事を指示し、チーム力で大きな仕事を進めていくことが求められる。組織内がうまくいっている企業のリーダーは、目標の見える化とポジティブなフィードバックがとても上手である。

▼5月号の第2特集は「教師のコミュニケーション能力」である。障がいを持っているどんな子どもにも、良いところは必ずある。そのポテンシャルをどう見立て、支援・指導していくかが教師の専門職を担保する力量である。子どもたちとだけではなく、いろいろな人とコミュニケーションを持つことができることが、教師の力量を高めることにつながるのだと思う。そのためには、聴くこと、そして、相手に合わせたアサーション(自己主張)である。

▼2012年の秋、1カ月間、フィンランドのオウルに行き、小・中・高校の先生の家にホームステイをして、オウル大学と総合学校の小学校1年生から中学3年生に授業をする機会に恵まれた。私のつたない英語でも、子どもたちも先生たちも一生懸命に聴き、理解しようとしてくれた。また、10分休みでも、ホテルのようなソファがある職員室に先生たちは集まり、コーヒーを飲みながら、談笑していた。午後3時前には帰宅し、近所の人や友人とディナーを楽しんでいた。また、異業種の友人をたくさんもち、一緒に休暇を楽しんでいた。教師のコミュニケーション力は、研修で育まれるのではなく、仕事以外の時間に、家族や友人との間で、また長期休暇の海外旅行の中で育まれていた。コミュニケーションは言葉ではなく、「心である」とつくづく感じさせられる1カ月だった。今の日本の教師に必要なことは、時間的・精神的ゆとりであろう。

 

(増田健太郎)
 
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