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立ち読み  
編集後記  第60巻03号 2012年4月
 

▼子どもは成長にともない、新しい生活環境に接し、課題と向かい合うことになる。課題を克服するために、自分と自分を取り巻く環境との相互作用を通して、心構えをはじめとして、生活習慣、コミュニケーションのとり方など、さまざまな認知や行動の変容を余儀なくされる。その過程において、いくつかの成功と失敗、喜びと傷つき、満足とフラストレーションを経験しながら、折り合える状況でバランスを保っていこうとする。うまく乗り越えられる場合もあるが、過度なストレスによって、適応できない場合も出てくる。

▼適応できなければ、不安、抑うつ、焦り、過敏といった心理的な反応に悩まされることもあれば、頭痛、腹痛、吐き気、食欲不振、不眠、全身倦怠感といった身体症状が出る場合もある。自分の気持ちを言葉で表すことが不得手な子どもの場合、夜尿症、指しゃぶりといった退行や、過度な攻撃性もみられることがある。また、学校に行けなくなる場合もある。

▼最近では、適応障害などの概念の理解もひろがり、「甘えている」などと一方的に決めつけられている事例は多くはない。しかしながら、性急に問題の解決を求める関係者は少なくない。当然のことながら、医療機関に紹介するだけでは解決はできない。新しい生活環境になじめない理由はそれぞれの事例で違いがあり、それぞれにおいて対応をしなければならない。障害が隠れている場合には、息の長い支援が必要である。

▼筆者は高齢者ケアの研究も行っているが、高齢者が新しい生活環境に適応するのは困難な場合が多い。病院への入院、施設への入所によって、さまざまな症状が起こってくる。適応能力が低下しているのも原因であるが、それは自然なことである。「甘えている」と責める人はいないし、性急に問題の解決を求める関係者も少ない。介護の世界では、その人の経験や感情を認め、共感し、力づければ、症状は悪化しないことが知られている。

▼子どもの場合も、新しい環境に接することで生じた経験や感情を認め、共感することは重要である。支援する場合、「共感的な理解を軸に楽観主義的に行動変容をエンパワメント」する方法が原則であると考えられる。エンパワメントのプロセスでは、まず、「相手が何を望んでいるかというところに関心を持ち、どのように支援したらいいのか」ということに焦点づける必要がある。「どうしたらうまくできそうであるか」を一緒に考え、「いつかは何とかなる」と楽観主義的にとらえたほうが、リラックスできて前向きに取り組みやすくなる。

▼そして、うまくできた場合には、その場でほめて強化する対応が望ましい。「本人ができることをできるように支援」し、成功体験を経験してもらうのが重要なのである。新しい生活環境に適応できる一つの鍵は自信であろう。困ったときに寄り添ってもらい自信を得られた経験は、次の世代にも受け継がれるものとなろう。

 

 

(馬場園 明)
 
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