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立ち読み  
編集後記  第59巻12号 2011年12月
 

▼東日本大震災後、泥沼と化した大地に咲いた一輪の花、そこに人々はわずかな希望を見出し復興に向けて立ち上がろうとしている。命の重さを知るにはあまりにも大きすぎる代償を払った子どもたちも、「苦境にあっても天を恨まず、運命に耐え、助けあって生きていくことが私たちの使命」(気仙沼市階上中学校卒業式答辞)と感じ、それぞれの場所で新たな生活を始めている。厳しい現実はあるけれど、自然はまた優しさや希望を与えてくれるものでもある。一方で、人類が作り出した科学はその影響がいまだ果てることなく、人々をそしてとくに子どもを心身共に危険な状態に置いている。

▼科学の発展による恩恵を受けて、私たちの生きている世界は便利、迅速、快適となった。団塊の世代が子どもだった頃には夢のような生活が今は当たり前になっている。すぐに誰かと連絡がとれ、家事は省力化され、人類は宇宙に飛ぶ。石油や原子力のエネルギーがそれを支え、私たちの生活を安寧に導いてくれるはずであった。しかし完全な安寧は無く、文明と科学はまたリスクをももたらした。今、私たちは自然と文明による恩恵を受けると同時にリスク管理も身につけ、次代を担う子どもたちをより安心できる状況に置く責任を持つ。

▼今月号の第1特集は、「子どもへのリスク教育」である。大人は子どもを守りたいが、守りきることはできない。「自分の命や生活の安全」は自分の責任でできる限り守ること、また全滅ではなく誰かが生き延びること、それが人類にとっては大切である。その意味で、未来を担う子どもたちが生き延びる術を身につけるリスク教育の必要性は大きい。自然災害、食の安全、電磁波のリスク、いずれも生命や健康の危険につながる分野である。情報を集め、選別し、正しく適切に怖がり、リスクに対する現実的な予防行動を実践することが必要になる。犯罪の被害者になるというリスク、事故に巻き込まれるリスクも想定される。地域との連携でリスクマップを作ること、防災訓練を行うこと等、大人と社会が子どもの主体的取り組みを支援しつつ教育することが望まれる。

▼第2特集は「子どもの夢の実現を支援する」である。子どもたちは危険と隣り合わせの未来に踏みだしていく。その原動力となるものは夢や希望であろう。夢を見出し実現していくプロセスに必要なものは、心や体を動かし、笑い、生きているという実感を味わうことではないだろうか。夢を語りその実現に向けて動き出すときに希望が芽生え、子どもはストレスにも耐え、そのプロセスで心身共に大きく成長する。その子の得意分野で、せかすことなく、その子のペースで歩めるように寄り添える大人でありたい。

▼ここまで書いて、いくつかのことわざが思い浮かんだ。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」「油断大敵」「好きこそものの上手なれ」「可愛い子には旅をさせよ」……先人の知恵は多くのことを教えてくれる。ことわざ辞典を座右に置いて、時にひもといてみようと思っている。

 

 

(荒木登茂子)
 
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