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立ち読み  
編集後記  第59巻9号 2011年9月
 

▼近年、傷つきやすい大学生が増えているという。もちろん、感受性の豊かな子どもたちは、以前からいる。ただ、「傷つき方」を見ていると、現代社会では「独立独歩」という行き方が困難なのかという疑問が起きてしまう。東山魁夷の「道」や高村光太郎の「道程」。本来、道は人やけものが何度も通り、踏み固めた結果として出来上がったものである。そしてその「足跡」が、後人の生きる指針ともなってきた。

▼誰もが人生のフロンティアなのだから、誰かが引いたコースにのる必要はないが、小学校から大学まで引かれたコースを真面目に辿ってきた若者たちは、コースから外れることに恐れを感じているようである。以前、本誌で海外留学が減っているということに諸説論じられたが、実は交換留学は順調に伸びているらしいということを聞いた。コースとしての位置づけが、留学先と将来の安心・安全感をもたらしているのだろうか。近年は、就職までセットになったコースが求められているように感じる。これまでのコースから外れ、経験したことがないことに当たるとパニックを起こし、そのコースの不備を感じると、どうしてよいか分からない。かといって、他人に相談し、頼ることもなかなかできず、「お互い様」も「ウザッたい」とくる。

▼今月号の第1特集は、「子どもの『耐える心』と発達」である。東日本大震災で、当事者である子どもたちの多くは、懸命に耐えているだろう。この耐えた結果が、どこかで強さや優しさ、そして、力として花開くことを希望する。現実の「耐えること」は、様々な要因が絡まり、想像以上に険しいものかもしれない。けれど、第三者として距離をおき、現在の自分と当面する問題を客観的に見据えることができるようになると、小さなことだったかのように感じられ、乗り越えられることもあるだろう。そんな時、将来に、新たな道が見えるように、自分自身でその道が創れるように支援ができればと思う。

▼第2特集は「美術教育と心の成長」である。描くことは創作活動であり、見つめることでもある。例えば「自画像」は自分の内面までも見つめることを必要とする。
 よく、途上国支援で途上国の子どもたちの絵を紹介する展示会が、ユニセフやユネスコをはじめ、様々な民間団体でも企画されている。世界の貧困地帯や紛争地帯で壮絶な体験をした子どもたちにつらい経験を吐露し、平和で楽しい風景等の絵を描いてもらうことは心理療法にも使われている。描くもの、表現されるものは、言葉や音楽と同じく、心の深層でつながっているのだろう。

▼また、見つめること、描くことは子どもたちの学力形成にも一役買っているそうだ。認知力や表現力にも「鑑識眼」や「美意識」が不可欠なのだが、なんと言っても美しさとは価値観や人生観、態度に関わる。信・善・美の構築する人間関係、そして社会は、子どもに夢や理想を抱かせ、将来を描く力を育むことができるのではないかと思っている。

 

 

(竹熊尚夫)
 
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