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編集後記  第58巻6号 2010年6月
 

▼慢性疾患をもつ子どもについては、リスクや問題が検討され、ネガティブな結果を予防するための対策もとられてきている。これらは必要なことであるが、対策をとることによって起こってくるネガティブな結果も存在する。筆者が小学校の時代では、心臓や腎臓に疾病がある子どもの日常生活の運動は制限され、体育実技は常に見学であった。そのことによって起こる身体能力の遅れや一緒に遊べないことによる疎外感は、小さくはなかったであろう。疾病の悪化を最少にしようという対応が、「生活の質」の低下も引き起こしていたように思われる。

▼慢性疾患をもつ子どもが病気に心身を縛られていては、「生活の質」を向上させることは困難である。慢性疾患に関しては、これ以上進行しないように支援していくことも重要であるが、「生活の質」も同様に考慮されるべきである。すなわち、「豊かな生活」や「満足できる人生」を送れるよう支援していくことが必要なのである。言い換えると、子どもの「生活の質」を低下させないための「創意工夫」が必要である。病気があっても可能な活動や学習は無限である。できない「有限なこと」に目を向けるよりも、できる「無限なこと」に目を向けるようにしたほうが本人にとって有利である。それでは、どのようなアプローチによって、自分ができる「無限なこと」に目を向けるようになるのであろうか。

▼筆者は、「共感的な理解を軸に楽観主義的に行動変容をエンパワメント」する方法として、「自らの生活の場という安心安定した環境のなかで、本人自身の内発的動機付けを尊重し、支援者は本人ができることをできるように支援し、目標達成型で行動変容を行い、新しいライフスタイル(ホームベース)を目指す」「ホームベース型健康支援」を提案している。ホームベース型健康支援では、本人の目標設定や自己決定の能力を最大限に尊重している。「自分はどうなりたいのか」「どうしたいのか」「何だったらうまくやれそうか」「どうしたらできそうなのか」といったことに焦点づける方法である。人のもっている「感覚」や「気づき」を病気や障害をもった人の支援に活用していこうというのが、ホームベース型健康支援の理念である。

▼今後、期待されるモデルは、慢性疾患をもつ子どもがそれを受け入れて、それを糧にして成長できるものであろう。その鍵は、子どもが「成功体験」を積むことができるかどうかにかかっていると思う。そのためには、子どもが適切な「目標」をもち、「周囲が支援」していく環境が不可欠であろう。周囲の支援は、「見守り」「励まし」「肯定的な評価」「情報の提供」「適切なアドバイス」などすべてが含まれる。

▼物的要求を満たすことや効率の追求による「物的な幸福の限界」がみえた現在、日本社会は新しい価値を模索しているように思われる。慢性疾患をもつ子どもが、子ども時代に適切な支援を受けられて、将来、「人を助けること」によって、「無限の幸福」を感じることができるようになることを願っている。

 

(馬場園 明)
 
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