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編集後記  第56巻3号 2008年3月
 

▼2007年12月、2006年PISA調査の結果が発表されました。日本は、2003年調査より読解力が14位から15位、数学的リテラシーが6位から10位、科学的リテラシーが2位から6位へと、それぞれ順位を下げました。PISA調査は、わが国では「PISAショック」ともいわれた前回以来、新聞などで大きく取り上げられるようになっています。今回の結果についての新聞見出しでもやはり「日本、理数離れ深刻。全分野の順位低下。“意欲”最下位」や「15歳の学力で日本続落。応用力、読解力とも」などが並んでいます。
▼PISA調査の結果、今、世界で最も注目されている国がフィンランドです。今回もフィンランドは科学的リテラシーが1位、読解力が2位(1位は韓国)、数学的リテラシーも2位(1位は台湾)という具合に、トップクラスの順位を堅持しました。前回調査でトップになって以来、フィンランド教育についての書物が矢継ぎ早に出されていますが、この傾向は日本に限ったことではなく、フィンランド教育の秘密を探ろうと多くの国から視察が殺到中だといわれています。
▼2007年11月末、イギリスのSpecialist Schools and Academies Trustという中等学校改革推進のための団体の年次大会に出席しました。この大会は全国から2000人以上の中等学校の校長や教師が参加するもので、イギリスでも最大規模の教育関係の大会です。その基調講演で、教育改革を研究しているハーグリーブス教授は、やはりフィンランドの躍進を取り上げ、フィンランドでは「高校生が就きたいと思う職業の第1位は教師である」とか「いかにコミュニティ全体で学校の質を上げる努力をしているか」などを挙げ、1950年代にはヨーロッパで経済的に最も遅れた国の一つであったフィンランドが、教育発展によって世界的な携帯電話メーカーのノキアに象徴されるようなハイテク知識経済社会に変容したことを力説していました。
▼ところで、この大会のキーワードは「持続可能性」というもので、学校改善や教育水準向上を長期にわたって「持続可能」とするには何をすべきなのかが中心テーマでした。その場合、最も重要な要素として現在イギリスで考えられているのが学校間の協働です。それは、この大会での「子ども・学校・家族省」のボールズ大臣の基調講演の中にもはっきりと示されていました。大臣は「わが国の改革は、学校がベストの実践を他の学校にも広げ、お互いに学び合うことによって、ともに進んでいく多様性と協働に基づいている」とし、特に「ベストの学校が“弱い”学校と協働することによって水準を押し上げるのを望む」と強調していました。
▼各国が順位にこだわるPISA調査は、学力をめぐるいわばグローバルな規模での競争です。これまで国内での学校間競争を主にしていたイギリスでは、教育水準の「持続可能」な向上を実現し、グローバルな競争に勝つためには国内では学校間協働こそが不可欠であるとの認識が広まっています。この方向がどのような成果をもたらすのか、今後も注目していきたいと思っています。

(望田研吾)
 
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