こころとからだを科学する
教育と医学
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編集後記
第54巻6号 2006年6月

▼2005年の11月から12月にかけて不安の強い子どもとその親を対象として「親子リラクゼーションプログラム」を九大の当講座で開催した。幼少時から不安の強い大学院生がいて、「不安をコントロールするには幼少期の訓練が効果的であること」を証明したいと言うからである。新聞で「病院にかかるほどではないけれど、人見知りがひどかったり、緊張する場面や学校へ行くときなどに腹痛・嘔吐・頻尿・頭痛などの症状が現れるお子様のことがご心配な保護者とお子様(6歳から12歳まで)のペア」を募集したところ、20組のペアが集まった。
▼プログラムの内容は、自律訓練法とボディートークとした。自律訓練法とは自律神経をコントロールし、心身をリラクゼーション状態にする方法である。すなわち、心身を緊張状態から弛緩状態(リラクゼーション)へと誘導する治療技法であり、種々の心身症や神経症の治療技法としても用いられている。ボディートークとは心身一如の観点から、こころとからだをほぐし、柔軟な人間関係を作り、自己表現や人間同士のふれあいを大切にする身体技法で、発声・呼吸法を中心とする方法である。親子を対象としたのは、親がリラクゼーションの効果を実感し、自分のこころのモニタリングができるようになることは重要であること、また、親子で毎日リラクゼーションに取り組んでもらえば、コミュニケーションが改善し問題解決につながる可能性もある、と考えたからである。
▼自律訓練法は喘息の子どもへの応用に実績のある当講座の荒木登茂子先生が、ボディートークは専門家である健康科学センターの高柳茂美先生が担当した。スタッフは事務の立石祐布子さんと大学院生と健康科学センターの保健師が務めた。対象は、自律訓練法を3週やってボディートークを3週する「ゾウさんチーム」と、ボディートークを3週やって自律訓練法を3週する「ウサギさんチーム」に分けた。大学の会場でも週1回集まってもらって訓練と検査を行うことにした。「ゾウさんチーム」は親子ともゾウの形のネームプレートをつけて、出席したらゾウのシールをもらえることにした。また、カレンダーも配布し、家でトレーニングをした日には小さなゾウのシールを自分で貼ることにした。ウサギさんチームも同様とした。家でのプログラムは15分程度で行えるものとし、プログラムの内容をA4判にまとめラミネート加工して配布した。大学の会場では自律訓練法、ボディートークをする前後で心理調査と唾液の検査を行い、リラクゼーションの効果を判定した。その結果、両群ともに効果があることがわかった。また、親のリラクゼーション効果が顕著であった。
▼最終日に、一人ひとりに話を聞いた。ほとんどのペアが毎日リラクゼーションをやっており、効果を実感していることがわかった。また、大事なときに不安なく対応できたと報告した子どももいた。参加した親は母親が多かったが、関心のなかった父親がトレーニングを毎日しているという報告も2件ほどあった。最後に、一人ひとりの子どもに修了証書の全文を読んで渡すと、みんなとても嬉しそうであった。

(馬場園 明)
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