12 美徳の継承の困難
 家族の一大イベントがあると、親族の交流は増すし、親族の重要性を否定したインフォーマントは皆無である。しかし、彼らには、親族との関係をより密にすべき誘因がないように思える。特に、郊外に離れて住んで、独立している人達はそうである。こうした現象は、ボストン・ブラーミン達の間にも確かに見られた。しかし、「家族信託」や「別荘」が、親族関係の希薄化に歯止めをかけているのに対し、アイルランド系カトリックのインフォーマントには、この傾向を食い止める手立てがほとんどなく、残されているのは個人の「常識」、つまり「恥」・「罪」・「義務」の意識に頼ることぐらいだ。
 実際、こうした意識こそは「労働者階級」の美徳にも連なるものであるが、それを、新しい機会やルールとともに育った若い世代に継承するのは、一層困難になってきている。と同時に、このことは、親族のあるべき姿をめぐる混乱、誤解、相克を助長しかねない。ブライアンは語る。「より独立した生活になるにつれ、親族から遠のいていった者もいます。そんな冷たい親族の名前を何人か挙げることもできます。多くは郊外に住んでいて、親族のことを気にかけないことで、世間から自分達を孤立させているのです。サウス・ボストンでさえ、親族が近くに住んでいるのに、敢えて、子供の世話に毎年五千ドル以上払っている人達がいます。人はいったん金や地位を手に入れてしまうと、家族や親族を振り返らなくなるものなのでしょうが、それにしてもね……。」
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